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実存浮遊

映画やアイドルなどの文化評論。良い社会になるために必要な事を模索し書き続けます。

「藤子・F・不二雄[異色短編集]1 ミノタウロスの皿」より「自分会議」 

■ 「自分会議」からいつが今の自分なのかを探る


「藤子・F・不二雄[異色短編集]1 ミノタウロスの皿」の中の一編「自分会議」は非常に興味深い作品です。

あらすじから書きます。
ネタバレを含むので以下の文章は了承の上おすすみください。



学生がアパートに引っ越すと、幼少期に訪れた記憶がある。
おじさんに連れてこられ、その後大人たちがもめてたという記憶だ。
その争いを見てポロポロ泣いてたが、気付くと家に戻ってた。


引っ越しの片付けをしていると、「9年後のきみだ」と名乗る大人が現れ「過去にしか戻れないタイムマシンを作った」と学生に告げる。
更に来客があり、その人物は「あなたは時価3億円の山林を相続することになりました」と学生に告げる。

未来から来た大人が言うには、9年前の自分は、学生で3億持って人生狂ったので、9年間預かっておく、ということらしかった。

すると「23年後のきみだ」というおじさんが現れる。
23年後には爆発的インフレが起こり、金が紙同然になっている、と。
だから山林を売ってはいけない。

すると「33年後のきみだ」というおじいさんが現れる。
土地がすべて国有化される。だからすぐに現金化し、宝石を買ってわしに預けろ、と告げる。

らちが開かないので幼少の自分を連れてきて意見を聞こう、という話になる。
おびえる幼少の自分は大人たちの言い争いを見て、悲観し、アパートから飛び降りました。
そして部屋は無人となった。


■ 「最良の選択」ってなんだろう


物語をまとめてみます。

・学生時代に3億円持つと人生が狂う
・金を持ってても23年後にはインフレが起こる
・かと言って山林を持ってても土地が国有化される

山林を相続された時点で現金化し、楽しく9年間過ごすか。
学生からの9年間を苦労し、9年後から23年後までの時間を楽しく過ごすか。
学生からの23年間を苦労し、23年後から33年後までの時間を山林の地価で楽しく過ごすか。
学生からの33年間を苦労し、33年後からの老後を楽しく過ごすか。


この物語を見ればわかるように、最良の選択というのは存在しません。
今を楽しむか、今を犠牲にして将来に託すか。
しかもその「将来」を何年後に設定するか曖昧です。
10年後か20年後か30年後か。
どれもが自分だが、どれもが自分ではありません。
それぞれの年代の自分が、「今幸せでありたい」と思っていて、過去を変えようとしています。
つまりは自分を否定し、犠牲にする。

学生からすれば、その後33年間生きた経験が無いので、当然今幸せになりたい。
おじいさんにすれば、33年間生きているので、どのような人生か知っている上でのアドバイスができる。
今の自分と33年後の自分はまったくの別人です。
つまり、「今」をどこに置くかによって戦略が変わります。
今の自分っていつの自分なんだろう。


■ 過去を何回変えれば気が済むんだ


大人になった自分が何人も「今の自分」を説得しにやってくる。
でもこの物語はおかしいですね。
タイムパラドクスものだからしょうがないんですけど。
幼少期の自分がラストで飛び降り自殺をします。
つまり、元々こんな物語自体成立しないことになります。
幼少期で死ぬんだから、学生とかおじさんとかおじいさんになれるはずがありません。

あまりにも多く過去を否定する自分たちが現れたので、自分自身の存在意義を失った、と受け取ればわかりやすいでしょうか。

過去を何度でもやり直せるとして、果たして「今」っていつなんでしょうか。
人生の一回性とはどこを指しているのでしょう。
すべてひっくるめて「一回の人生」とすべきなのか。
繰り返せば繰り返すほど不幸になる、という構図は映画「バタフライ・エフェクト」やアニメ版「時をかける少女」などで描かれています。
どちらも根本を断ち切ることですべてを解決しようとします。
「自分会議」では、子供の自分が飛び降り自殺することですべてが無くなります。

この瞬間。現時点ですべての時間が存在している。
今この瞬間に9年後も23年後も33年後も存在している。
幼少期の自分も今この瞬間に存在している。
なぜだか知らないけど、今現在の目線は学生の頃になっていて、未来から知らないおじさんやおじいさんがやってくる。
なぜ今この瞬間が学生なのか。
なぜ「学生時代から9年後の自分」の目線を持ち得ないのか。

33年後のおじいさんにとって、何度も過去に戻って昔の自分を説得しようとした、という記憶があるんだから、もっと狡猾に振舞うべきだったんじゃないでしょうか。
言わばこの人物は思考が浅かったということです。
もっと頭が良ければ、何度も過去を繰り返せる能力でもっと幸福に生きれたはずです。

時間は一本道。
過去や未来の前後なんて些細なことです。
それをひっくるめてすべてがひとつ。


■ 「今」を生きる でも「今」ってなんだ


「今」を大事に生きるしかない。
でもその「今」っていつのことなんだろう。
「自分会議」を読めばわかるように、学生もおじさんもおじいさんも、みんな「今」を大事にしています。

未来を予測して行動しているとしても、それはその「今」を大事にしていることになります。

どんなに「今」を大事にしても不幸が巡ってくる。
現在の我々には過去に戻る能力がありません。
だから「この一回性」を生きるしかありません。
もし失敗しても過去をやり直すことができない。
だから現在を修正するしかない。

「今」は「今」しかありません。
今この現在を、現在の自分が今体験できているという奇跡を打ち震えよ。

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テーマ: 哲学/倫理学 - ジャンル: 学問・文化・芸術