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実存浮遊

映画やアイドルなどの文化評論。良い社会になるために必要な事を模索し書き続けます。

映画『クロスロード』が描く青年海外協力隊は人を動機付けるか 


青年海外協力隊を描いた映画『クロスロード』を鑑賞しました。
公式サイト

アローディアちゃんがかわい過ぎて内容が頭に入りにくいという事態になりましたが、以下ネタバレを含む感想のため了承の上お進みください。




カメラマン助手の沢田とボランティア精神あふれる羽村。
考えるよりもまず行動に移す沢田は派遣先でもすぐに溶け込むが、実直な羽村は自分を出せずにうまく溶け込めない。
一方沢田は自分の成すべきことを黙々とやり遂げていく羽村に対して負い目を感じていた。

フィリピンでの2年間を「何も得られなかった」と語る沢田。岩手でも青年海外協力隊の時のようにボランティア精神あふれる活動を続ける羽村。
負い目を感じ続ける沢田は羽村に憧れるが、羽村も沢田の行動力に憧れており、岩手で沢田的に振る舞うことで今でも活動を続けられているのだ、と感謝を述べる。

そのことで嫌なことがあったフィリピンに再び訪れる決意をする沢田はそこで自分の活動の意味を実感する。


タイトルにあるクロスロードとは正反対の沢田と羽村が理解し合えたことを指しているのでしょう。
交わることで今までは見えなかった景色も見えるようになる。


物語の構造はとてもわかりやすいです。
二人の性格の異なる男がいて、お互いを意識することで成長する。

沢田は観光課の手伝いをするためにカメラマンとして協力するが、フィリピンの過酷な生活環境を目の当たりにし、この環境を変えたいとシャッターを切りまくる。

羽村はどじょうの養殖を伝え、それなりに成果が出るが、数年経った現在は施設の維持費など別の問題が浮上していると語る。

支持された活動に歯向い自分の思うがままに行動した沢田は環境を変えることができ、実直な羽村は環境を変えても問題をも生み出してしまう。
だからこそ羽村は沢田に憧れ続ける。

そう。人は利他的な行動をする者に惹かれる。
命を助けた子に別れの日カメラを盗まれた沢田はそのカメラを子供にあげてしまう。おそらく2年間の画像データが詰まっていたであろうデジタル一眼を恩知らずな子供にあげてしまうという利他的な行動は、その子がジャーナリズムを継承するということにつながる。
その子の写真が評価され、劣悪な環境が改善されていく。

当初の沢田の写真で環境を変える、ということにはならなかったが、沢田の行動がゆくゆくは環境を変えた。

ボランティアとは利他的であること。
利他的な行動が環境を変える。


■ 『クロスロード』の物足りなさ

この映画は青年海外協力隊の表層を描いているように感じました。
実際に協力隊に参加し、現在も海外支援している友人に聞くと同じ印象を持ったそうです。

理由は2点あります。
1点は「さらに劣悪で残酷な環境があるだろう」と感じさせるゆるやかさ。
もう1点は「沢田が他者に影響を与えるほどの男に描かれていない」というゆるやかさです。


この映画を見ていて、目を覆いたくなるようなシーンは皆無でした。匂い立つような場面もありません。
ですので少年がカメラを盗む行為も、ただ少年が悪者であるかのように映ってしまいます。
子供が売られたり臓器売買のために殺されたり、物を奪わずには生きていけないような環境が描かれていたら、少年がカメラを盗むのは必然だと納得できます。劣悪な環境であれば誰でもカメラを盗まざるを得ない、という納得ができるのです。

命を助け、姉と共に仲良しになり、カメラの撮り方を教えるくらい親密になるのにカメラを盗まれる。
劣悪さが描かれていないと、カメラ好きになった少年が盗んだ、となります。
劣悪さが描かれると、親密でもカメラを盗まざるを得なくさせる環境こそが狂ってる、となります。

単純に少年を矯正すればいいということではなく、環境から変えなければならない、と観客に感じさせるには、より劣悪さを描くべきでした。


2点目です。
沢田は初対面でも誰にでも好かれるような懐の深さと行動力、自分が撮った写真で環境を変えたいという熱い想いがあります。
ですが観客にとってすべて理解可能な行動に思えます。
そのような立場なら自分も同じように行動できそう、と感じさせます。

理解不能な利他性により人は動きます。
カメラを盗んだ罪悪感を抱えながらカメラマンとなった少年。「一枚の写真で世界を変える」という想いを引き継いだということが描かれています。
このあたりの理由付けが弱く感じました。
フィリピンの劣悪な環境を変えるためになぜか必死に行動する沢田が描かれていたら良かったと思います。
それを見た少年は「なぜこの日本人は関係無い国のために必死になるんだろう」と理解不能な利他性に打ちのめされることでしょう。
盗んでしまったカメラで罪悪感を抱きつつもあの日の沢田のようにカメラを撮り続ける青年へと成長するのがきれいに描かれたはずです。


青年海外協力隊というのはこんな活動をしていますよ、という広報的な映画としては正しい作りだと思います。
ただ、青年海外協力隊に参加せざるを得なくさせるような映画では無かったかと思います。

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