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実存浮遊

映画やアイドルなどの文化評論。良い社会になるために必要な事を模索し書き続けます。

ももクロの新アルバムに込められた「成長」と「愛」【隣人愛から悠久不変の愛へ】 



「ももクロのアルバムがCDショップ大賞に選ばれますように」
この願いを込めて記事を書いてきました。

(参照記事:ももクロの新アルバムへの期待
(参照記事:ももクロがさらに加速していく 【Documentary of "AMARANTHUS / 白金の夜明け"感想】

そしていよいよ発売されました。我慢できずに休憩中に職場を抜けて買いに行きました。やっと聴けました。感想は「とんでもないぞこれは!」です。本当にCDショップ大賞を獲りそうな勢いです。良かったです。

いろんな方が感想や考察などをなさっているので僕も感想を書きたいと思います。
音楽的な知識は無く、『マホロバケーション』最高!とかヒャダイン最高!とかれにちゃんの声ギャンきゃわ!ぐらいしか書けないので違う方向からアプローチしたいと思います。

キーワードは「通過儀礼」と「楳図かずお『イアラ』」です。


■ 成長して景色が変わっていく

アルバムのテーマは「生と死」、「夢」などが掲げられていましたが、中には『ゴリラパンチ』やシングル曲などテーマとは直接関係のない曲も入っています。
ですがアルバムに組み込まれることで新たな輝きを発し、意味が変わっていくのを感じた方も多いと思います。
『イマジネーション』から『MOON PRIDE』 、『「Z」の誓い』の流れはひとつのストーリーになっているようにも受け取れます。
永遠だと思われていた未来や夢の世界も壊れてしまうものと知ることで大きく成長する。
表向きのテーマとして「生と死」、「夢」が発表されましたが、裏テーマとして「成長」、「愛」があるように思えます。


成長を描く物語には定番の順序があります。
抜け出したいような日常が描かれ、非日常を体験し、日常に再び舞い戻る。
再び目にする日常は最初の頃と違い輝いて見える。
映画版の『ドラえもん』や『グーニーズ』、アニメ『時をかける少女』など、様々な作品がこのような構造になっています。
成長を描く際に象徴するアイテムやポイントとなる物が登場します。
『グーニーズ』の場合は主人公が持っている吸引器です。
『AMARANTHUS』と『白金の夜明け』の場合は「色」だと感じました。

『バトルアンドロマンス』ではメンバーの名前やももクロという単語、色の名前などが歌詞やタイトルにたくさん使われています。
ですが今回のアルバムでは象徴的なのが「ももクロ」という単語が入る「マホロバケーション』、涙の青を含む6色が歌詞に込められている『モノクロデッサン』、黒がタイトルにも入る『もっ黒ニナル果て』、そしてピンク色が強調されている『桃色空』の4曲で、他の20曲は色やももクロやメンバーの名前が強調されていません。

ですがなぜかまとまっているように感じられる。
その一つの要因としてはプロモーション展開がうまかったことが挙げられると思います。
毎日レコーディング場所でのインタビュー動画をアップしたり、あからじめテーマを発表していたり、発売前にドキュメント映像を映画館で放映して話題性を狙ったりと、聴く前からイメージを固めることに成功しました。
そして一番大事なことですが、どの曲も良い。これが核だったと思います。
有無を言わせぬ素晴らしさだったことが成功のポイントでした。

他には、メンバーの声が合いの手として多様されている点も挙げられます。
前作と比べてメンバーの声の数が圧倒的に多いように感じられます。
1曲1曲も4分台のものが多く、短い時間にメンバーの声や複数の音がぎゅっとつまっています。
ももクロの魅力に「時間感覚を喪失させる」というのがあると思います。
楽しい時間があっという間に過ぎるのと同じく、気づくと1時間経っていたというのが今回の2作です。

さて、あえて色などを強調しなくても「ももクロちゃんが歌っている」というだけでももクロのアルバムでしかないことが証明された素晴らしい今回の2作ですが、僕が感じた裏テーマ「成長」と「愛」についてです。

『AMARANTHUS』の最後の曲と『白金の夜明け』の最初の曲に同じメロディが使われていることは続けて聴くとよりわかりやすくなっています。
ではさらに『白金の夜明け』の1曲目から始まり『桃色空』のあとに『AMARANTHUS』を聴くとどうなるか。
おそらく聴いた方の多くは、赤ちゃんの産声が初めて聴く時と印象が違ったのではないでしょうか。

一回目に聴く『embryo -prologue-』は『WE ARE BORN』の歌詞もあり、泣きながら安寧の母体を這い出して生まれてきた、というマイナスの印象が強いと思いますが、『桃色空』を聴いたあとでは、心臓音と泣き声に温かさが加わっているように感じられたかと思います。
一回目はつらいけど生まれて生き抜いていく、というネガティブさと力強さを感じます。一周して再び聴くとそれらが消え、生と死、友情や愛、出会いと別れなどを経て、この世界の美しさを知り、過酷であると知りながらもあえて生まれてきたんだ、という印象に変換されていきます。

成長物語の構図と同じく、辛い日常があり、非日常を体感することで、日常が実は計り知れないほど尊く美しいものであることを学びます。
産声の意味が変わる、という部分に象徴されているように、2枚のアルバムを通して何度でも聴くことで景色が変わります。
そこがこのアルバムの素晴らしいところであり、2枚同時でなければならない理由でもあるのだと思います。


■ 楳図かずお『イアラ』と「愛」について

『イアラ』は死の間際に女が発した「イアラ」という言葉の謎を追う究極の愛の物語です。
その言葉を聴いた男は永遠に生き続け、女が生まれ変わって再びこの世に誕生するのを待つ。
女は様々な人生を生き、男は「イアラ」の謎を追う。
楳図かずお『おろち』も永遠に生き続ける美少女が主人公でしたが、『イアラ』は男が主人公です。
また手塚治虫『火の鳥』も永遠の命を手にしてしまった男が登場します。

『AMARANTHUS』と『白金の夜明け』を交互に繰り返し聴くことで「これは『イアラ』なのではないか」と感じました。
先行上映会の時に『WE ARE BORN』のMVの制作秘話を聞かせていただきました。
当初は「アルバム全体を表現して欲しい」という依頼のもとで『バイバイでさよなら』と組み合わさったようなMVにしたかったそうなのですがそれができなかったということでした。
そこで、『WE ARE BORN』単体として制作し、その中で、生まれてから死んで、再び生まれるというMVにしたということでした。

生まれて様々な経験をして死んでいく。
そしてまた生まれてくる。その時は景色が変わって見える。
同じ経験をしているように見えて、最初の時とはまた違った見方ができる。
(シングル曲をアルバムを通して聴くと、発売当初とはまた別の意味に聴こえてきたはずです。アレンジも少し変えている気がしますがそこは音楽に詳しい方にお任せします)

『愛を継ぐもの』ではまさに人類創世から現在にいたるまでの愛の歴史が描かれています。
『猛烈宇宙交響曲・第七楽章「無限の愛」』では「嫌われ、言葉が届かないとしても愛を捧げる」というキリスト教的隣人愛を表現していましたが、『愛を継ぐもの』では悠久の愛について表現されています。
ももクロの大テーマが「愛」だと感じました。
『武陵桃源なかよし物語』では勝手にゼリー食べたことで仲が悪くなったことを「積み上げた石のタワーは一瞬で壊れる」と表現していたと思ったら、今度は人類の愛を語る際に「石のタワーは壊れても人が人としている限り何も壊れない」と表現するダイナミズムが素晴らしいです。

「イアラー!」という最期の言葉の謎はぜひ原作をお読みいただきたいと思います。
ですがお読みいただけるとアルバムに貫かれている愛が『イアラ』にも描かれていることがわかると思います。

何度でも生まれ変わり、成長を止めないももクロが伝承する「愛」に貫かれてみんなが笑顔のままひとつになる。
このアルバムが一曲一曲は全部バラバラなはずなのにすべてがつながっているように聞こえるのは「成長物語」と「愛」が根幹にあるからなんだと思います。


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