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実存浮遊

映画やアイドルなどの文化評論。良い社会になるために必要な事を模索し書き続けます。

『ドラゴンボール』から『背すじをピン!と』へ 【弱くなる主人公】 

『背すじをピンと!』という高校競技ダンス部の漫画を読みました。
涙があふれてきました。
とても素敵な漫画なのでいろんな人に読んでいただきたいです。
これぞ王道ジャンプ漫画というもので、絵柄やキャラクター、展開など多くの点で誰にでも愛されるべき漫画です。
がんばってる人、悩んでる人、一歩踏み出したい人、負けた経験を引きずってる人、泣いた人、笑いたい人など、いろんな人に読んでもらいたいです。

かつてのももクロもそうでした。
僕が初めてももクロを知った2011年の夏。今思えばももクロにあるジャンプ展開に強く惹かれていたのでした。
精神的支柱を失った物語は『SLAM DUNK』で言えば主将のゴリが怪我で離脱したシーンに当たるでしょう。
(川上マネージャーが離れたら安西先生不在の展開を想起させますが、完全に離脱することはなく今でもももクロちゃんの側にいますね)

様々な必殺技を獲得し、強敵(会場のキャパ)を次々と倒し、出会った人たちを仲間にしていくのはまさに『ドラゴンボール』と同じです。
『サルでも描けるマンガ教室』でも指摘されているように、『ドラゴンボール』が「強い奴のインフレ」に陥ったのと同様、ももクロも同じ展開になったのは宿命とも言えるのでした。


『背すじをピン!と』は『ドラゴンボール』やももクロが教えてくれたドキドキワクワク感を持っています。
『ドラゴンボール』から『SLAM DUNK』。そして『SLAM DUNK』の流れを汲む『弱虫ペダル』があり、その先にある「バトル×スポーツもの」の最前線こそが『背すじをピン!と』なのです。


『ドラゴンボール』から『SLAM DUNK』、そして『弱虫ペダル』という流れは主人公が弱くなる歴史でもあります。
すごい能力を持っているけどバカな少年が努力をし友情パワーで敵を倒す。
素人だけどすごい才能を秘めたバカな高校生が努力しメンバーにも支えられ勝利する。
素人だけどがんばり屋で自転車レースが大好きな高校生がチームに支えられ、時には支えながら勝利する。

サイヤ人。異常な身体能力を持つ不良。オタク少年。
そして『背すじをピン!と』ではついに平凡な高校生となりました。
『弱虫ペダル』から引き継いでいるのは「(ダンスが)楽しい」ということだけです。

素人ががんばっている。これはももクロにも共通する点です。
歌もダンスも上手じゃないにも関わらずなぜか強く惹かれてしまう。
それは笑顔で楽しそうだからです。
無表情と笑顔があったら、自然と笑顔を目で追うように人はなっています。
更に、天性の才能を持つ人と努力家を比べたら、努力家を応援したくなるようになっています。
なぜなら多くの人は才能なんて持っていないからです。
自分自身がいっぱいがんばっているからこそ、がんばっている人を応援したくなります。

ももクロの魅力のひとつは「悲壮感の無さ」だと思います。
モー娘。が全盛期の時はオーディション風景やレッスン風景などの過酷な裏側を見せることで強烈な物語を観客と共有してきました。ですがそこも「強い奴のインフレ」に陥り衰退していきます。
(現在のモー娘。やハロプロは過酷なレッスンの下地に楽曲の良さも加わったことでファンを拡大しているようです。また新グループも次々続々と登場し、先輩後輩の関係が多様になることで「関係性萌え」という学園もののような楽しみ方もできます。努力に努力を重ねてようやく敵を倒すという展開になればまさにジャンプ的です。今注目すべきアイドル集団でしょう)


主人公の少年と少女は共に地味で目立たない存在です。
変わりに周囲のキャラクターは強烈で個性的です。
この二人が共に支え合いながら少しずつ成長していく物語です。
と当初は思っていました。

ギャグやパロディもおもしろいし、絵柄もかわいいし、『ハイキュー!!』と見比べれば一目瞭然ですがすべてのコマがとても丁寧に作られています。
可能ならば『ハイキュー!!』の1巻と最新巻の表紙やコマを見比べてみてください。
1巻はとても丁寧でかっこいいのに対し、巻を重ねるにつれスピードを重視しているせいなのか雑に見えてしまいます。
そして『ハイキュー!!』の二人の主人公は共に超人的能力を持つ者であり、『SLAM DUNK』の桜木と流川の関係にあります。
『SLAM DUNK』は二人の関係性が最後の試合に活きてきますが、『ハイキュー!!』の場合はセッターとアタッカーの関係にあるため常にボールのやりとりが発生してしまいます。
そのため二人で必殺技を開発していく、という展開で魅せていくことになるのですが、ここは「強い奴のインフレ」ならぬ「強い必殺技のインフレ」に陥っているように感じます。
序盤から超人的なトス回しと常人を超えた身体能力でのアタックという必殺技があり、そこの弱点が見つかり、克服し新必殺技を獲得する、という流れなのですが、最初の必殺技にインパクトがあり過ぎました。

ももクロで言えば、とても敵わないと思っていたキャパの会場を次々と攻略していくことの凄さと、狭いライブハウスでのパフォーマンスを比べると、序盤のドキドキワクワク感の方が気持ち良いという感覚と似ています。

『ハイキュー!!』が陥っている展開を『弱虫ペダル』はどのように回避しているかと言うと、「凡人」と「楽しい」の2点です。
凡人だから努力しますし、素人だから始めた頃の楽しさが色あせていません。
素人が楽しみながらがんばっている姿に多くの人が共感しているのです。

『背すじをピン!と』のキャラクター投票の結果を見ても、地味な二人が圧倒的な得票で勝っています。
超人的能力を持つキャラクターに憧れた時代から、素人だけど楽しみながらがんばって努力しているキャラクターが愛される時代になっているのかも知れません。


先ほど「素人の二人が共に支え合いながら成長していく物語、だと思っていた」と書きました。
実はここに大きな仕掛けがあったのです。
その展開にまんまとしてやられてしまい、僕は涙を流しました。
ぜひ現在最新の7巻まで読んでいただきたいです。
キャラクター投票の結果を見てもわかるように、このキャラクターは明らかに作者によって隠されてきました。
そこまで隠されてきてのこの展開に大変感動したのです。

凡人が努力し楽しみながらがんばる。そこには苦悩や負い目が必要だったんです。


何度でも言いますが、『背すじをピン!と』こそが王道少年ジャンプマンガです。
今こそ読みましょう。
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