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実存浮遊

映画やアイドルなどの文化評論。良い社会になるために必要な事を模索し書き続けます。

映画『おおかみこどもの雨と雪』【通過儀礼・社会性の獲得・世界認識】 

■ 映画『おおかみこどもの雨と雪』の対比


映画『おおかみこどもの雨と雪』を観ました。

『時をかける少女』と『サマーウォーズ』ではSFでしたが、今作は狼男と人間の女性の間に生まれた二人の子供が主人公のファンタジー映画です。

以下ネタバレを含むので了承の上お進みください。




軽くストーリーに触れます。

いつも笑っている貧乏学生の花は、大学に潜入して勉強している男と出会う。
惹かれ合う二人。
実は狼男であることを告白され、それでも共に生きていくことを決意する花。
雪が降っている時に長女「雪」が生まれ、翌年の雨の日に「雨」が生まれる。
ある日狼男が狼の姿で下水路で死んでいるのが見つかる。

女手ひとつで狼人間の子供二人を育てるも、都会では限界があり地方に移り住む。

自然に触れ、地方の共同体で生きていく3人。
子供から大人へと成長する姿が描かれる。


日本アニメーションの素晴らしさはこの映画を見ればわかるでしょう。
映像としての美しさは一目瞭然。
細田監督はこの映画で「風」を表現したかったそうで、確かに花やカーテンが揺れる様は世界の素晴らしさを体感できるでしょう。


僕がすごいと思ったのが、佇まいで心情などの機微が表現されているところです。
頭の動きや目線だけで恋をしているのがわかるし、あとで詳しく書きますが娘の雪が大人になったことが説明せずともわかります。


前作『サマーウォーズ』での感想でも書いたように、細田監督の特徴は「わかりやすさ」です。
説明的ではないのにしっかり説明されている。



■ 少女は何を失い、少年は何に貫かれたか


活発で好奇心旺盛の少女雪と、それとは正反対の気弱な少年雨。
興奮するとすぐに狼の姿になっちゃう雪は見ててほほえましいです。
一方雨は、狼が悪者である絵本ばかりの社会に対し常に自分の存在に自信が持てない。

無邪気な女の子雪と、居場所が無い雨。
なぜ雪が女の子で、雨が男の子なのかは後述します。


『おおかみこどもの雨と雪』のキーワードは「通過儀礼」「社会性の獲得」「世界認識」です。


この物語は、雨と雪がこの世界に生まれ、そして大人になるまでを描いています。

好奇心旺盛な女の子雪は、やがて小学校に興味を抱き、絶対に行きたいと母親を困らせます。
絶対に狼に変身しないおまじないを教わり小学校に通う雪。
明るく運動神経抜群な雪は、すぐにクラスの人気者になる。

だが普通の女の子が宝石のおもちゃなどで遊んでいるのに、雪は小動物の骨や蛇の抜け殻などを集めて喜んでいて、他の女の子との違いにショックを受ける。

朱色のワンピースから、女の子らしい青のワンピースに変わる。
途端に雪は魅力を失う。
かつてキラキラと輝いていた雪は、社会性を獲得することで他の女の子と見分けがつかなくなる。

転校生の男の子に獣臭さを指摘され、追い詰められた雪は思わず狼の前足で彼の耳を傷つけてしまう。
雪にとってもう狼になることはマイナス要素でしかないのだ。


雨はあることがきっかけで世界認識が変わる。
冬の川の石の上に鳥が止まっているのを見つけた雨は、本能が目覚めたかのように襲いかかる。
鳥を捕まえたが、首に巻いていたマフラーに足を取られて冷たい川に落ちて死にそうになってしまう。

自然の恐ろしさ、畏敬、畏怖のようなものを知り、自然の魅力にとりつかれていく。
雪が学校で社会性を身に付けて人間になっていくのに対し、雨は山の主である老キツネから自然を学ぶことで狼になっていく。

なぜ雨が人間ではなく狼を選ぶのか。
それは、父親の存在と檻に閉じ込められた老狼との出会いによってだ。

父親は狼男として人間界を生き、人間の女性と出会い狼人間である雪と雨を人間界に産み落とし、自身はすでに死んでしまっている。
そして檻で生気を失い呼吸している老狼は、雨から見ても全く魅力を感じない。
そう。雨にとってこの社会は檻のようなものだ。
山を駆けている時こそ世界を体感できる。
幼少期はかなわなかった姉に対しても力で勝てるようになった。
姉はもう狼ではない。


絵本で描かれるように、嫌われ者の狼は人間社会では生きていけない。


世界の素晴らしさに触れた雨は、社会性を維持することは下らなく、山を守ることしか興味が無い。
老キツネの死をきっかけに、自身が山の主になる決意をする。

老狼のように檻に閉じ込められることが無い山へ。
人間と交配し再びおおかみこどもを産むことの無い山へ。
おそらく雨は生涯一人のままで山を守り死んでいく。

この地に降り注ぐ雨のように、「常にある存在」へと成長した。



二人のおおかみこどもを育てた花。
彼女はいつも笑っている。
その笑顔がやがて田舎の共同体に入るきっかけとなる。
勉強家の彼女は、必死に田舎で生きていく術を学んでいく。
貧乏で母子家庭でしかも二人の子供は被差別の対象になりうる特徴を持っている。
社会は酷薄だ。
だが花の存在が酷薄な社会を無害化している。

なぜ雪が女で社会とうまく折り合いをつけられ、映画のナレーションも雪がやるのか。
それは花を引き継いでいるからだ。
どんなひどい状況でも笑顔で生きていく。
花も雪ももう輝いていない。
厳密に言うと、人と関わることで活き活きと輝くが、世界の素晴らしさを伝える役目はすでにできなくなっている。
雨は社会性を捨て世界の素晴らしさを伝えられる力を備える。
朝日に包まれながらの遠吠えのシーンはとても美しい。


狼のことを好きだと言ってくれた最愛の母親ですら社会に引き止める力を持たない。

当然だ。
自然のすごさや緻密性は家族の絆すら越える。
社会というのは実はちっぽけなもので、自然の秩序の方が大きい。
自然を守ることで社会も守れる。


少女と少年が大人になる物語。

少女は社会性を獲得することで大人になり、少年は全体の調整役になることで大人になった。

社会を生きる我々にとって、雪がせつなく見えるのは当然のことなのだ。

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テーマ: 映画感想 - ジャンル: 映画

この記事に対するコメント

さかもとさんの記事を見てTSUTAYAで借りて見てみました。
すると、本編ではなく12分間の予告だけでした。裏面に記載されている内容を確認せず借りてしまったために……
気付いたんですが、この映画って今ロードショーで放映されてる新作なんですね。迂闊でした!笑

URL | アロエ #-

2012/08/02 16:56 * 編集 *

アロエさんへ

コメントありがとうございます!


> さかもとさんの記事を見てTSUTAYAで借りて見てみました。
> すると、本編ではなく12分間の予告だけでした。裏面に記載されている内容を確認せず借りてしまったために……
> 気付いたんですが、この映画って今ロードショーで放映されてる新作なんですね。迂闊でした!笑


よく無料で宣伝用に貸してることがありますけど、あれ紛らわしいですよね。
今まさに劇場公開されてる映画です!
お騒がせしました。

おおかみこどもよりは時をかける少女の方が好きです!

URL | さかもと #-

2012/08/02 19:51 * 編集 *

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