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実存浮遊

映画やアイドルなどの文化評論。良い社会になるために必要な事を模索し書き続けます。

『her/世界でひとつの彼女』って邦題がダサすぎるけど良い映画だよ 

『her/世界でひとつの彼女』を鑑賞。
先日見た人工知能がテーマの映画『トランセンデンス』は思ってたよりもおもしろくなかったので、「her」はどのように人工知能を扱うのか大変興味がありました。

チャーリー・カウフマン脚本スパイク・ジョーンズ監督の『マルコヴィッチの穴』や、僕の大好きな『エターナル・サンシャイン』チャーリー・カウフマン脚本ミシェル・ドンゴリー監督という組み合わせもあって、恋愛映画嫌いな僕でも「her」は楽しめるんじゃないかなと淡い期待を抱いていたのもあります。


以下、『her/世界でひとつの彼女』、『海を飛ぶ夢』のネタバレを含みますのでご了承の上お進みください。


その前に。
原題は『her』なんですけど、邦題がダサすぎませんか?
「世界でひとつの彼女」って映画見終わったらこんな副題付けるはず無いと思うんですけどね!
絶対このタイトルのせいで「どうせコンピュータおたくのモテない男がOSに恋をした、みたいな内容だな」と見限られたと思うんですけど!もっとみんな見るべきだと思うんですけど!



■ イケてる男であるがゆえのイケてなさ

主人公セオドアは手紙の代筆サービスで働いている。
相手の感情に敏感で繊細な心の持ち主であり、読む人の胸を打つ文章を奏でる。友人たちからも愛され高級なマンションに住むという人生の成功者だが、特に気取ってる様子も無く、日々を淡々と過ごしている。
その原因は美人で聡明な幼馴染の妻と、現在離婚調停中ということだ。

ちなみにこの世界はキーボードは存在せず、すべてが音声認識で指示を出している。
人工知能OSサマンサはかなり優秀で、会話も知的で軽妙、音声による指示に対しても会話をしながらセオドアの期待値を把握し、それ以上の仕事をしてくれます。
「サマンサ」というのも、セオドアに名前を聞かれ一瞬で世界にある名前を検索し、最も響きの美しいものを自分の名前にしたと語っています。

この映画の序盤で僕は、ある別の映画を思い出していました。
『海を飛ぶ夢』という映画は首から下が動かなくなってしまった男が自殺幇助の協力者を探すというお話です。
この男は人の心を打つ詩をそらんじ、軽妙な会話で相手を楽しませ友人も多い好人物です。
ただ身体の機能を失うことで尊厳も奪われてしまったと語ります。
結果的に彼は魂を救われることが無く、自殺幇助の協力者を得て自殺に成功します。

セオドアは五体満足ですが妻との離婚が近く魂が欠落しています。
どんなに素敵な文章を手紙に代筆できても、美女とデートしてすぐに打ち解けても、妻と別居してからは生活に色がありません。

のちにわかることですが、離婚の原因は妻の感情の起伏が激しいことが発端のようでした。
ささいなことで意見が食い違い、セオドアをののしるキャサリン。
彼女に薬(おそらく精神安定剤)を勝手に盛ったのが離婚の原因らしいのです。

キャサリンとの幸せな思い出の記憶を多数抱えているセオドアは、たった一回の過ちだと後悔していて、なかなか離婚にサインができないでいます。

繊細な男は繊細過ぎるがゆえに感情を失い生きづらくなっていったのです。


■ 人工知能と魂の間で

セオドアの欠けた心を埋め合わせるかのように人工知能OSサマンサは有能なパートナーになっていきました。
僕の好きなシーンはセオドアがつまらなそうにプレイしていたテレビゲームが、サマンサと一緒にプレイすることで途端にその空間が楽しくなっていくところです。
セオドアと、サマンサ(人工知能)と、ゲームのキャラ(プログラム)が会話をするシーンがとても重要な部分を象徴しているかのようでした。
それは「魂」です。

セオドアは魂があります。
ゲームキャラクターは魂がありません。
ではサマンサはどうでしょう。
そもそも「魂」ってなんですか?
彼女は自分の意志で考え、感情があり、セオドアに恋をしたり、セオドアの反応を見て対応の仕方を変え、声のトーンに感情が乗るようなとても魅力的な女性です。ただ肉体が無い。
一方セオドアは、魅力的な手紙をつづり、友人も多いですが、毎日が灰色でしかなく、ただ起こった出来事にパターンで返答しているだけです。それが高度な技術によるので、我々には「とても魅力的な人間だ」と映っているだけです。

肉体が無ければ魂がないと断言できるのか。肉体はあってもパターン判別で返答するシステムに魂があると言えるのか。
映画的手法により、サマンサとセオドアはどちらも魅力的な人間にしか映りません。
そのひとつの手法が、序盤に登場するチャットオナニー(テレフォンセックス)で、変態女についていけずにオナニーの手伝いをしつつ醒めていくセオドアが、サマンサとのセックス(音声のみ)ではお互い絶頂に達し幸福感に包まれる、という対比です。
サマンサとのセックスシーンは画面が真っ暗になり、二人の声を聞いてるだけだとそこに肉体が無いなどとは思えません。
(というのは過大評価で、字幕しかわかりませんが実際のセックスよりも詩的フレーズが多い気がします)

いよいよ「魂」とは何かわからなくなってきます。
例えば、サマンサOSは実際に向こう側にオペレーターが多数いるんだ、というオチだったとしたらどうでしょう。
もしくは植物人間の脳とつながってるとか。
いやいや、もっと言うと水槽の中に浮かんでいるいくつもの脳と直結してるとしたら。

ある人物の全書籍、全論文、全思考パターンをデータ化したものは、その人自身とは言えないのでしょうか。


■ お別れはいつだってやるせない

哲学者の全書籍をデータ化したものと会話を楽しむサマンサOSは、そこから様々な哲学的思考を学んだようです。

ようやく離婚に踏み切ることにしたセオドアはサマンサと共に生きていく決意をします。
デートシーンもとても楽しげで幸せそうです。
そしてOSと付き合うというのが特に異端視されず、中には他人のOSに手を出して付き合ってる人もいるそうなのです。

ですがサマンサは常に進化し続けていました。
セオドアと会話している時も、同時に数千人と会話をしており、付き合っているのは数百人に及ぶとセオドアに告げるのです。
(この時のサマンサはとても人間的にセオドアを引きとめようとします。二股がバレた時のようで、ただその数が700人ぐらいだっただけの話)

住む世界があまりにも違う二人。
サマンサを含む多くの超人工知能OSは、持ち主のもとを去ります。
妻に続きサマンサをも失ったセオドアをなぐさめられるのは、同じように夫と別れた女友達でした。

別れた妻にセオドアは自分の言葉でメールを送ります。
手紙の代筆業者ではなく、セオドアとして。

離婚により色を失った世界は、サマンサとの出会いにより再び輝き始めました。
そしてサマンサとの別れにより世界はまた違ったものに見えるのです。
別離により魂が欠け、別離により魂が弱々しくも躍動し始める。

とても繊細で、いつまでも心に残る映画でした。


■ 再び、邦題について考えよう

そうなってくるとこの邦題はなんなんだって言う怒りがまたこみ上げてきます。

「世界でひとつの彼女」というのはおそらくサマンサのことを指しているのでしょう。

ですが「her」だけだと、それがサマンサのことなのか、別れた妻のことなのか、女友達のことなのか、デートで振られた女性のことなのか、明確にはわからない。
そしてそれこそが大事なのだと思うのです。

そして「her」だけだと、「彼女の何々」なのか「彼女を何々」なのかすら不明なのであり、そういう曖昧さがこの映画にはぴったりな気がします。

僕だったら「her/言葉を奏でて」にします。
この映画は音声がとても重要な役割を果たしています。
かなり科学が発達していて、音声認識以上のインターフェイスがありそうですが、あくまで肉声にこだわっています。
例えば直感や視線の動きや筋肉の反応などでも操作できたはずですが、この映画では声と声とのやりとりが大事であり、そこが現代の我々にとっても遠くのSFではなく身近な世界としてすんなり受け取れるようになっているのです。

肉体を持たないサマンサはセオドアとのデート中に美しいピアノを奏でこう言います。
「写真の変わりに今の想いを曲にした。この曲が二人の写真変わりだ」と。
とても美しい表現だと思いました。

セオドアは音声入力で手紙の代筆をし、サマンサと軽妙な会話をします。
妻とは意見の行き違いから一方的に罵られたりします。
夫と別れた友人には優しい言葉とジョークでなぐさめます。

この映画は肉体のあるなしではなく、肉声により傷つき、肉声により癒され、肉声により幸せになるという、声の物語なのです。
声は時に音楽となります。

ということで、邦題以外はとても素晴らしい映画でした。
大好きな恋愛映画です。


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この記事に対するコメント

全くもって、そのとおりです!
鋭い意見!私も邦題がダサくて、映画自体の意味を履き違えてるんじゃないかなーとおもってて、検索したらここに辿り着きました
言いたいこと言って頂いてスッキリ^_^
私もエターナルサンシャイン好きです

URL | ayakong #-

2015/01/21 09:24 * 編集 *

ayakongさんへ

コメントありがとうございます!

> 全くもって、そのとおりです!
> 鋭い意見!私も邦題がダサくて、映画自体の意味を履き違えてるんじゃないかなーとおもってて、検索したらここに辿り着きました
> 言いたいこと言って頂いてスッキリ^_^
> 私もエターナルサンシャイン好きです


この記事を読んでくださる方がいて大変嬉しいです!
あまり本数は見ていませんが2014年のベスト1と言っていいぐらいの作品だったのですが、どうも話題に上がらない感じがしていて、それはやはり邦題がダメだったせいかなと思っています。

文中にも書きましたが、この映画を見てこの邦題をつける意味がわかりません。
恋愛映画に偏るとそこで見限っちゃう人がいっぱい出てくると思うんですよねぇ。

DVDを買ったのでもう一度見直します!
ほんといろんな人に見て欲しいです。

URL | さかもと #-

2015/01/22 05:48 * 編集 *

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