実存浮遊
映画やアイドルなどの文化評論。良い社会になるために必要な事を模索し書き続けます。
2016.06.18 Sat. 05:10 :edit
松岡茉優の「おこだわり」がすごい
『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』が無事最終回を迎えました。
初回の冒頭。女優の松岡茉優さんがモー娘。と一緒に踊り、それを見ている伊藤沙莉さんが泣いている、という最終回を予想させる映像が流れました。
それから『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』(清野とおる作)に登場する人物に実際に会いに行くというバラエティ番組であることが明かされます。
見ている人は、あらかじめ「バラエティ番組をドキュメント風に撮影しているドラマである」ことを刷り込まれます。
さらには「このドキュメンタリーはフィクションです」と明示されています。
ここにはドキュメンタリーへの批判が含まれるでしょう。
森達也監督の言う「ドキュメンタリーは嘘をつく」です。
カメラがそこに存在している時点で、被写体というものが存在する時点でそれはもう「作られていくもの」です。
ですがこの作り物は松岡茉優さんでなければ成立しませんでした。
女優松岡茉優の凄みから目が離せなくなるドラマです。
モー娘。から鞘師里保さんが卒業したということ。
松岡茉優さんが鞘師里保さんの熱狂的なファンであるということ。
松岡茉優さんがバラエティタレントと女優という二つの場所で活躍しているということ。
これらがあったからこそ生まれたドラマです。
最終話のタイトル『その「おこだわり」、私たちにもくれよ』の「私たち」はもちろん松岡茉優の生き様を見続けてきた我々のことだ。
● 松岡茉優が堕ちて上昇する物語
まずこのドラマの概要を説明します。
原作に登場する「おこだわり人」に会いに行く松岡茉優さんと伊藤沙莉さんですが、原作の展開を忠実にこなそうとする松岡茉優さんと、番組をおもしろくしようとあえて「おこだわり」に従わず自由奔放に振る舞う伊藤沙莉さんとが衝突します。
誰からも嫌われたくないし、バラエティ番組として成功させたい松岡さんと、嫌われるかどうかよりもおもしろいバラエティ番組を作りたい伊藤さん。
実際には松岡さんの方が映画やバラエティなどで知名度が高く、伊藤さんの知名度はまだまだだと言えるでしょう。松岡さんの方が正しいように見えます。
ですが作中の様々な出来事で松岡さんは伊藤さんには敵わない弱い存在であることがわかります。
嫌われないように平均点でこなしていく松岡さんよりも、空気が読めないかのような振る舞いで本心でぶつかっていく伊藤さんの方こそが周囲を動かしていくのです。
果ては原作者から松岡さんへ、伊藤さんは良いけど松岡さんはダメだ、という主旨のことを告げられてしまうのです。
伊藤さんが「師匠的」「直感的」「表出的」「イケてる」だとしたら、松岡さんは「弟子的」「理屈的」「表現的」「イケてない」です。
うまく生きているように見えるのに幸せじゃない者に映るのです。
そしてさらに松岡さんはどん底へ突き落されることになります。
実はこのバラエティ番組の司会は元々八嶋智人さんが選ばれていたと明かされるのです。
しかも、自由奔放に振る舞っていたかに見えた伊藤さんが、実はゲストのことを徹底的に調べ上げてから撮影に臨んでいたことを知るのです。
バラエティ番組をこなしているように見えて、底の浅さが露呈してしまった松岡さんは、一番の「おこだわり」である鞘師里保さんを目指すことにします。
女優を捨てアイドルになることを決意した松岡さんは、練習の末にモー娘。のステージに立つのでした。
● 松岡茉優は鞘師里保になりたくない
このドラマはフィクションです。フィクションである証拠がいたる所にちりばめられています。
一番のフィクションは「松岡茉優は鞘師里保のポジションに立ちたいと思うわけがない」ということです。
【参照】モーニング娘。 鞘師里保 「松岡茉優にハッピードッキリ」
会うだけで崩れ落ちるように泣いてしまう存在である鞘師さんと同じポジションで踊ってくださいと言われたら断るでしょう。
つい先日イチロー選手がヒット数の大記録を塗り替えましたが、イチローの代わりに打席に立ってください、と言われたら絶対断るでしょう。
りほりほ推しの松岡さんがりほりほの代表曲とも言える『One・Two・Three』でセンターに立ってくださいと言われたら「バカ言え!」と断るはずです。
【参照】モーニング娘。 「One・Two・Three」 (Dance Shot Ver.)
でも鞘師里保さんのポジションに立ちました。なぜなら松岡茉優さんは女優だからです。
りほりほの場所に立つというありえなさが松岡さんをとんでもない女優であると証明しています。
りほりほ推しならばリハーサルの時にあんな下手に踊ったり振り付けも覚えてこないなんてありえません。
付け加えると、あゆみんこと石田亜祐美さんもあんな態度を取るわけがなく、演技をしていたことがわかります。
ただ、鞘師里保さんとライバルのような関係にあった石田亜祐美さんに「新入りを認めない」という演出をしたのは大正解だと思いました。
鞘師が孫悟空だとすれば石田はベジータ。
孫悟空の代わりに悟空ファンが来てもベジータは受け入れるはずがありません。
しかもモーニング娘。は特に上下関係が厳しいグループとして知られます。
半年でも先に入っていたら年齢関係なく先輩後輩が決まりますし、後輩は先輩よりも1時間早く現場にいなければならないと言われています。
現在一番上が9期で、一番下が12期なので、集合時間の3時間以上前には12期が集まっていなければならないのです。
そのような環境で研修生でもない、ただバラエティ番組でアイドルになると決めただけの元女優が現れたとしても、モー娘。の歴史を受け継ぐ存在である石田さんが松岡さんを受け入れないのは当然の演出と言えます。
尊敬していた先輩の鞘師さんの穴を埋めるのは自分しかいないと覚悟を決めて生き続けている石田さんが鞘師さんの座を簡単に譲るはずがないのです。
ですが実際のあゆみんはとても愉快な女の子で人当たりも良く、後輩の面倒見も良いので、伊藤さんからインタビューを受けてた時の方が素に近いと思います。
ダンスは正確無比で空気を切り裂くような鋭さを持っているのですが、普段は床に笑い転げたり握手会でもファンへの対応が良いと言われている150cmの女の子です。
まとめると、このドラマはとてもよく練られているということです。見ればわかるのでまとめるまでもありませんが。
● 松岡茉優の凄み
録画されている方はぜひMVと見比べていただきたいのですが、MVの3分30秒あたりのところから始まる鞘師さんのフェイクとまったく同じように松岡さんもフェイクを行っています。
フィクションであると明示され、我々もドキュメントではなくドラマであると理解した上で見ているはずなのに、松岡茉優さんに凄みを感じてしまうのはドラマとノンフィクションの境界線を消滅させているからでしょう。
松岡さんがモー娘。ファンである、という共通理解を利用している部分もありますし、我々の「松岡茉優像」を利用されているという部分もあるでしょう。
そもそも登場人物すべてが本人役であるという時点でドラマとノンフィクションの境界線を曖昧にしていますが、それだけではありません。
鞘師推しの松岡茉優が鞘師のポジションに立つありえなさを乗り越えて演技しているところがすごいのです。
さらに、松岡さんよりも上の存在だった伊藤さんが、松岡さんの「おこだわり」を見て泣いているから我々に「これはすごいことなんだ」と直感で伝わてきます。
散々松岡さんのことばかり書いてきましたが、伊藤さんもとても素晴らしい女優なのです。
二人が共演した中での最高傑作と言っても過言ではないでしょう。
今後また共演があったとして、この作品を超えることはなかなか難しいのではないでしょうか。
それぐらい様々なものが重なり合って出来たありえない作品なのです。
最後になりますが、ドラマの企画であるにも関わらずこんな無茶な展開を受け入れてくださったモー娘。のメンバーさんと運営スタッフさん、ファンのみなさんの寛大なるご対応にはほんと感謝しています。
みなさんのおかげでこんなおもしろくて素晴らしいドラマを最後まで見ることができました。
本当にありがとうございました。
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