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実存浮遊

映画やアイドルなどの文化評論。良い社会になるために必要な事を模索し書き続けます。

ブルドッキングヘッドロックvol28『バカシティ たそがれ編』が持つ批評性 


ブルドッキングヘッドロックvol28『バカシティ』(公演期間2016年11月2日~11月20日)を観劇してきました。
バカシティ公式サイト

『桐島、部活やめるってよ』や『幕が上がる』の脚本としてもお馴染みの喜安浩平さんが主催する劇団の公演なのですが、劇団員の岡山さんと親しくさせていただいたご縁もあり、ぜひ見に行きますとお約束したのでした。
岡山さんとはももクロファン同士として知り合い、『シン・ゴジラ』に衝撃を受けて一緒に2回目を観に行く仲に。『君の名は。』も二人で鑑賞などし、最近も『この世界の片隅に』を鑑賞してきました。

岡山さんから『バカシティ』のチラシをいただき、ご一緒していたれにちゃん推しの友人と共に軽い感じで「あー行きます行きます」みたいな感じで約束しました。

喜安浩平さんと言えばアニメ版『はじめの一歩』の主役の声を担当していて、僕は最初一歩の声の人と『桐島』の脚本家が同じ人だと思いませんでした。珍しい苗字の人が二人いるんだな、と。
なので同一人物だと知った時は衝撃的でした。『はじめの一歩』で泣き、数年後には『桐島』が話題になり、そして僕の大好きなももクロちゃんの主演映画の脚本までなさるとは。
しかも今調べてみたら、個人的に2016年ベスト3に入る『ディストラクション・ベイビーズ』の脚本も真利子監督と共同で手掛けていたなんて!
ちなみに真利子監督はももクロちゃんが出演している映画『NINIFUNI』の監督ですね。
ももクロがつなぐ凄まじいご縁。


そういうこともあり、『バカシティ』を観劇するのは大変楽しみでした。
友人と渋谷で待ち合わせをし、「出演者の友人ということで差し入れとか買っていくべきではないか」などと気付き、きゃーきゃーテンションが上がりながら「岡山さんだから岡山県産のぶどうでいいのではないでしょうか。僕られにちゃん推しだから紫のぶどうで合ってるし」と、何が合ってるのかわかりませんが、高級感漂うぶどうにしました。これならみなさんでパクつけるでしょうし。

そして会場であるアゴラ劇場に行ったのですが、ここって『幕が上がる』で高橋さおりらの先輩が公演を行った場所ではありませんか!
友人は知っていましたが僕は無知なまま生きているので途端にテンションが上がりました。
ここにももクロちゃんや黒木華さんや伊藤沙莉ちゃんや吉岡里帆ちゃんや芳根京子ちゃんが!?
オリザ人形が運ばれたり!!
しかも『バカシティ』を観劇に相楽樹さん(『とと姉ちゃん』の次女役でお馴染み)もここに来てたの!?
アゴラ劇場すごい!!

そしたらテンションが上がり終わりまして、開演まで2時間ぐらいをどうするかという話になり、食事するところを探して歩いていたら渋谷にたどり着きました。そしてご飯食べたら眠くなりました。
「観劇中に寝てしまったらどうしよう」という恐怖に怯えながら会場へ。アゴラ劇場の中はとても狭く、舞台まで手を伸ばせば届きそうな距離です。


『バカシティ たそがれ編』が終わり友人と一番最初に交わした会話が「岡山さん主役じゃん!」でした。
主役への差し入れに「岡山県産の紫のぶどう」という笑えないものを選び、こんな僕らが一番バカじゃないか、という落ちがついたのでした。
観劇後に劇団員さんと交流会があり、岡山さんに「主役だったら最初から言っておいてくださいよ!」と怒りました。
しかも喜安さんや『幕が上がる』のプロデューサーさんらしき方もいらっしゃって、岡山さんのおかげでご挨拶できました。
「バカシティ面白かったです!ももクロちゃんも大好きです!」とこれまたバカみたいな感想でした。


ということで前置きが長くなりましたが、以下『バカシティ たそがれ編』の感想です。
公演のDVDも発売されるかと思いますので、ネタバレを避けたい方は以下読まない方が良いです。
ちなみに相楽樹さんが客演しているのは『1995』というタイトルらしいですよ。




● 『バカシティ たそがれ編』が持つ批評性

落語がモチーフとなっているタイムパラドックスもので、物語の整合性を確かめる暇も無く笑いで圧倒された。
あらすじを言うと、地下アイドルに入れ込む3人の男がいる。そのアイドルからメールで結婚を約束されるのだが、3人とも受け取っていた。その中の1人松本は過去の時間をいじる事でアイドルを独り占めしようとするが、時間警察に追われる身となり、歴史の改変が繰り返されることで物語はあらぬ方向へと進んでいく。

他の公演はもっと静からしいが、初めて見るのが『バカシティ たそがれ編』で良かった。
松本さん役(松本哲也)が素人目に見ても上手なのがわかる。自然体にしか見えないんだけどしっかりおもしろい。もちろん脚本もあるんだろうけど、岡山さんに聞いたらセリフを変えたりもしたそうなので、すごい人なのだろう。
しかも最初のシーンは「これは時間が繰り返されているんだ」と気付くための重要な場面なので、ここに印象的なフレーズを置いておくのはとても効果的だった。
(岡山さんがスマホを使ってるだけでどうかと思ってる、平べったい石でいいじゃん、というようなセリフ。笑えて、かつ、2回目3回目の時に時間が戻ったんだとちゃんとわかる大切な場面)

中盤の時間停止の畳み掛けはくだらなくて最高に笑えました。
「タイムストップ」
「タイムストップストップ」
「タイムストッププレミアムエディション」
など、まさにバカバカしい展開に。

社員旅行のシーンでは劇作家の平田オリザさんが演出する「同時多発会話」が起こるが、すぐに「うるせえな!」と消される。
「本物」と「本物っぽい演劇」と「おもしろい演劇」の区別がなされている気がした。
演劇がより本物に近づくことが良しとされるとしたら、そこにはいわゆる「ドキュメンタリーの壁」と同じ問題が発生してしまう。
つまり「カメラがあるじゃん」ということだ。演劇の場合は「観客がいるじゃん」ということ。

一方で、日常を食い破るほどの凄まじい作品というのは、本物っぽいかどうかなんて瑣末な問題だ。
『ディストラクション・ベイビーズ』を例にすると、主人公を柳楽優弥が演じていて、セリフはほとんど無くケンカしまくる役だ。こんな奴とは普通に生きていて出会えるはずも無く、本物っぽいかどうか判別できない。
でも、凄い。
この映画を見る前と後では日常の景色が違う。
ちょうど『アオイホノオ』の再放送が放映されていた時期でもあり、柳楽優弥のすごさも感じた。

「本物」と「本物っぽい演技」と「凄い演技」というのは全部違うということ。
日常生活で俳優と観客を意識することもなければ、どれだけ本物っぽい演技をしたところで観客は見ているものを演劇と意識せざるを得ない。
どれが一番か二番か、という問題ではなく、それぞれすべて別のもの、ということだ。
その意味で『バカシティ たそがれ編』で「同時多発会話」を否定したのは区別化を宣言したように感じた。


これにつながる問題で、観客は何を見て、何を意識からはずそうとするか、というものがあり、『バカシティ たそがれ編』では大いに唸った。

時を止められ動けなくなった人の顔に水しぶきを掛けると動けるようになる、という設定が明かされる。
人はどんなに我慢してても顔に水しぶきが掛かると思わずまばたきしてしまう、という馬鹿げた理由なのだが、ここが物語の伏線になっている。

劇中、岡山さんは全身汗だくになっている。だが観客は汗だくになっている岡山さんを見て笑わない。なぜなら意識を外すからだ。
日常生活で全身汗だくになって会話してる人は見かけない。岡山さんはあくまで演劇中で動いているから汗だくなのであって、物語の中では汗だくではない、と観劇中は「汗」を意識から外そうとする。

そこへ来て、岡山さんにタイムストップが効かないのは顔が汗で常に濡れているからだ、と明かされるのだ。
今まで見ないようにしていたものが突然目の前に現れる衝撃。
観客全員が「やっぱ汗すごかったよね!」と意識がひとつになり大爆笑に包まれる。

ここも現代演劇への批評のように感じた。
「本物っぽい演技」をしても生理現象までは止められない。
聞いた話では岡山さんは汗を大量にかくために裏で水を飲みまくってたそうですが。


● 「おかしみ」ってなんだろう

「知り合いが出てるから」くらいの軽い気持ちで見に行った演劇でしたが、主役だったし内容も面白かったので観劇できて良かったです。
出演してる女優さんもかわいかったです。

地下アイドルが好きというのは絶対岡山さんをモデルにして作られた脚本だろう、と思った。
地下アイドル役の二見香帆さんは絵恋ちゃんの動画などを見て研究したそうです。

あとバイトの先輩に扮した時間警察役の鳴海由莉さんの「キングダム読んでっから」というセリフで笑いました。ちょうど『キングダム』を最新刊まで読み終えたばかりだったので。


ただタイトルがいまだに謎です。
もっと落語っぽいわかりやすいタイトルでも良かった気がするし、馬鹿な人が登場するわけでもありませんでしたし。

ブルドッキングヘッドロックは「おかしみ」を標榜しているとインタビューに載っていました。
それは「バカ」とは違う気がしました。
メタ的に現代演劇を批評することでも無いでしょう。
むしろ「シティ」という語感にまとわりついているおしゃれさの方に近いのかも知れません。
悲哀さというか、笑うしかない状況というか、そう言ったものが「おかしみ」なのかも知れません。


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