実存浮遊
映画やアイドルなどの文化評論。良い社会になるために必要な事を模索し書き続けます。
2018.09.05 Wed. 13:38 :edit
「低視聴率叩き」という弱い者いじめ ドラマ『健康で文化的な最低限度の生活』が今を写し出す
現在放送中のドラマ『健康で文化的な最低限度の生活』に対し価値を貶める記事を読みました。
下記リンクです。
なぜ「ケンカツ」の視聴率は最低なのか? データで読み解く失敗ドラマの敗因
低視聴率の原因をデータで読み解くというテーマでしたが、拝読したところ挙げられたデータは推論を補強するという、執筆者の思い込みのために用意されたようなものでした。
「データで読み解く」のではなく「論旨に合うデータを用意」したかのように見受けられました。
それだけでなく、「低視聴率ドラマは失敗であり、スタッフや出演者のことをいくら悪く言ってもいいのだ」というような記事であり、執筆者の掲げる信条に反する振る舞いであるように感じられました。
この記事の執筆者であるメディア遊民氏は「番組愛は人一倍強いが、既得権益にしがみつく姿勢は嫌い」と掲げています。
好きな番組以外はいくら貶してもいいということなのでしょうか。
低視聴率のドラマだからこそ良さを見つけ、知らない人達に知っていただくことがTVというメディアが生き残る道の一つだと思うのですが、TVメディアの存亡よりも弱者を叩き既得権益にしがみつくのが大事であるかのように感じられます。
そこでこのメディア遊民氏の記事に反論する形で「弱者を切り捨てていることに気付ない怖さ」と「ドラマ『健康で文化的な最低限度の生活』の素晴らしさ」について考えていきたいと思います。
■ 弱い者いじめを推奨し、生きにくくさせている風潮を強める
メディア遊民氏の論旨は
「初回視聴率が悪く挽回できなかった」
「ツイート数も少ない」
「タイトルが悪い」
「視聴者が自分事として興味を持てない」
「原作漫画も累計50万部とごく一部にしか響いていない」
というものです。
「初回視聴率が悪いから視聴率が悪い」と記事を書くことの、どこに意味があるのでしょうか。
「累計50万部」をごく一部と評するのも感覚がずれている気がします。
連載を続け単行本を50万部も売れる漫画家は数えるほどでしょう。多くの漫画家さん達は連載を勝ち取ったり少しでも単行本が売れるよう必死に努力しています。
「タイトルが悪い」と切り捨てていますが、私はここが一番問題だと感じています。
私は『健康で文化的な最低限度の生活』というタイトルで今期見るドラマの一つに選びました。
憲法の条文がタイトルとなっていて、さらには現代社会が「健康で文化的な最低限度の生活」を送れない人たちを切り捨てていることをも指摘しています。
そう。メディア遊民氏が低視聴率というだけでこのドラマを切り捨てているように、です。そのことに私は憤りを感じています。
メディア遊民氏やその記事へのコメント欄の中でも「不正受給者を懲らしめて欲しい」という主旨の文章が目立ちます。
もちろん不正受給は無い方が良いに決まってますが、全体の約2%の問題を、さも一番の大問題であるかのように喧伝するのは、生活保護を受けている方々の肩身を狭くさせることにつながりかねません。
このドラマは「生活保護」に対し、とても丁寧に取り組み、とてもわかりやすく作られており、真摯な姿勢を受けます。
「健康で」「文化的な」「最低限度の生活」を送れない人たちがいて、それぞれいろんな理由を抱えていることを教えてくれます。
とても社会的意義があるドラマなのに、低視聴率だから失敗だとし見ることを勧めもしないのは、TVメディアの記事を書く者の態度として正しいのでしょうか。
私がこのドラマで特に印象に残ったのは識字障害をテーマに扱った第7話です。
知能は成人と同等なのに、字が読めないというだけで働くことができない。
トム・クルーズ氏が有名ですが、知識としては知っていても、このドラマを見るまではそこまで思いが至りませんでした。
ドラマでは、障害者認定することで物事を進めようとする担当者。働きたいけど字が読めず、それを障害と押し付けられるのをすぐには受け入れられないという受給者。この二人を軸にとても繊細な構成になっていました。
■ 低視聴率=社会を見捨てている?
極わずかなケースを大々的に取り上げることは、視聴者の考えを悪い方向に導く危険な行為です。
それでも視聴率のためにはすべきとでも言うのでしょうか。
「あっと驚く解決」というのも同じです。現実問題を扱っているドラマの中で「あっと驚く」レアな解決策を描くことで、視聴者の考え方を歪め、「生活保護」のイメージを悪い方向に固定させてしまうでしょう。
それよりも、このドラマが描くように、一人一人に生活があり、それぞれにいろんな問題がある、と真摯に伝えることの方が、とても重要で、今の社会に貢献しています。
高視聴率礼讃、低視聴率排他のメディア遊民氏の態度は、そのまま現代社会を表しています。
立場が弱い人たちはいくら叩いても良い。
後付けでいろいろ理由を探し出し、もっともらしくご高説をぶって良い。
相手は反論してこないんだから何やったって良い。
慧眼な読者はメディア遊民氏の記事を読んだところで鵜呑みにすることは無いでしょう。
ですが、ドラマを見ていない人や流し読みする人にとっては「やっぱこのドラマ駄目なんだ」と自動的に思い込んでしまう危険性があります。
根本的な話、いつまで「高視聴率ドラマ=良いドラマ」という固定概念に縛られ続けるのでしょうか。
TVメディアの未来を考えるならば、視聴率どうこうの記事なんて書くのをお止めになってはいかがでしょう。
なぜこのドラマの視聴率が悪いか。
それは国民が社会を見たくないのと同義です。
このドラマの視聴率が悪いこと自体が、この現代社会の先行きの不透明さを物語っているのです。
様々な問題を抱え、生きていくのもやっとな人たちを決して見捨てない人たちのドラマです。
ぜひご覧下さい。
スポンサーサイト
« 映画『ア・ゴースト・ストーリー』と『若おかみは小学生!』の別れ
高城れにさんお誕生日おめでとうございます »
トラックバック
| h o m e |