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実存浮遊

映画やアイドルなどの文化評論。良い社会になるために必要な事を模索し書き続けます。

映画「告白」の強者と弱者のどんでん返し 

湊かなえ原作・中島哲也監督「告白」を見てきました。

松たか子が中学の先生役で出ています。あとは木村佳乃や岡田将生が出演しています。

「下妻物語」「嫌われ松子の一生」「パコと魔法の絵本」などの過去作とは違った作風で、色彩が鮮やかなわけでも、ミュージカルやアニメーションが入り込むわけでもなく、映画はただ淡々と結末へと進みます。
でもまったく飽きない。
体感時間は1時間ぐらいでしょうか。
要所要所で高速度カメラ撮影のようなゆっくりした映像になったり、効果的に音楽が入り込んだり、映画としてのおもしろさも申し分ありません。

以下「告白」の内容に触れネタバレを含む文章が続きます。ご了承の上おすすみください。




■ 視点が変わると強者が変わる「告白」の構造

物語は松たか子演じる森口悠子先生の告白から始まる。
「愛美はこのクラスの生徒に殺されたのです」
娘を殺されたと告白し、少年法に守られている犯人をいまさら暴き立てるつもりはないと言いつつ、クラスの生徒たちにすぐわかるような特徴を話し出す森口先生。
旦那がエイズを発症していることも告白し、娘を殺した犯人2人が飲んだ牛乳に旦那の血液を混入したことを告げる。


少年Aの発明品の電気ショックで娘が気絶し、それを死んだと勘違いした少年Bがプールに落とした。
エイズの血液を飲んだ少年Aはクラスメイトから人殺しだといじめられ、少年Bは発狂し自室から出なくなる。


森口先生の後任に、若い熱血先生が選ばれる。
不登校になった少年Bの家に毎週向かう。
クラスメイトに書かせた寄せ書きには「人・孤・ロ・し・し・ネ」の文字だけ太くなっている。
「人殺し死ね」のメッセージにも気付かない鈍感で純粋な男性教員。


少年Bはエイズが他人に広まるのを恐れ引きこもっていた。
そして少年Bの母親である木村佳乃への告白。
森口先生の娘が生きていたのを知ってて殺したのだ、と。
少年Aができなかった殺人を少年Bはやってのけた。
少年Aを見返したかった少年B。
少年Bの告白により、少年Aを越えていることが観客にわかる。

少年Bの母親は我が子を殺して自殺しようと決意するも、殺し切れずに少年Bに殺される。


少年Aは激化するいじめの中、淡々と学校生活を過ごしている。
幼少期に母親に捨てられた少年Aは、母親に振り向いて欲しくて電気工学の勉強をし、いろいろ発明していた。
血液入り牛乳を飲んだ時、少年Aは感謝したのだった。
エイズになって余命わずかとなれば母親に振り向いてもらえる、と。
ここで少年Aが森口先生を越えていることが観客にわかる。

でも少年Aがエイズ検査をしたところ結果は陰性。
絶望し何もなくなった少年Aは、命について書いた作文で賞を取り、それを体育館で発表することになる。
夜中学校にしのび込み爆弾を仕掛け、全校生徒と一緒に死ぬことを決意。
それでようやく大きなニュースとなって母親にも気付いてもらえる。


でも少年Aの計画は失敗した。
森口先生にすべて見抜かれていたのだ。
「あなたの大好きなお母さんのもとに、あなたが発明したものを届けてあげましたよ」
体育館の壇上で起動した爆弾のスイッチは、母親のもとに置かれた爆弾に点火されたのだった。
自分の手で自分の最愛の者を殺させる。
それが最愛の者を無関係な者に殺された森口先生の復讐だったのだ。

最後、少年Aに向かって森口先生は言う。
「これが私の復讐です。本当の地獄。ここから、あなたの更生の第一歩が始まるんです。なーんてね」


最終的に森口先生が強者だと気付く。
でも森口先生は大きな何かを失っている。
中学生にエイズの血液を飲ませたり、母親を殺させるような人になるぐらい、とてつもない何かを失っている。

でもこの映画にはある仕掛けがある。
果たして森口先生はこれらをしたのだろうか。


■ 嘘をついているのは誰か

この映画は、告白するものが交代していくことで進んでいきます。
ある者の告白では弱者に見えていたものが、視点が変わることで強者だったことに気付かされる。
なので見ていて飽きません。常に観客は次の展開を期待する。

少年Aに操られていたと思ってた少年Bが、実は少年Aが達成できなかった殺人を成し遂げていたことがわかったり、エイズにおびえているように見えた少年Aが、実はエイズ発症を望んでいたり。
そして、最終的には森口先生がすべてを操っていたことに気付き、観客は震えるのです。
すべてに絶望し、人を殺すことに何の感情も抱かない少年Aに崇高なカリスマ性を見出し始める観客は、結局母親に甘えたかっただけの愚かな少年Aだということが森口先生の口から語られ、本当の強者は先生なのだと知ります。
熱血教師を送り込み、少年Bを追い込んだのも森口先生。
母親からのメッセージだといつわり、少年Aのサイトに書き込んだのも森口先生。
その後少年Aは喜んで母親がいる大学に行くも、母親の再婚と妊娠を知り、ショックで学校爆破を計画したのでした。


この映画は、一コマ一コマ、一言ひとことが見逃せません。
森口先生は最初の場面で生徒たちにこう言います。
「あなたたちはとても嘘が上手です」と。
森口先生はどんな嘘も見抜いている。
女子生徒に呼び出された男性教員がラブホテルへ行き写真を撮られ先生を辞めた事件に対し、嘘を見抜けなかった男性教員の不注意が悪い、と言う。
森口先生は生徒の嘘を見抜いています。

では森口先生の方はどうなんでしょう。
嘘をついていないのでしょうか。

本当にエイズの血液を牛乳に混入したのでしょうか。
30人以上いる生徒の中から、少年A少年Bのふたりにそれを配る暇なんかあったんだろうか。
少年Bを追い込むために熱血先生に嘘を言って利用したり、少年AのサイトのAの母親だと偽って書き込みもしています。
それに先生は最後、少年Aにこう告げている。
「(少年Aが作った爆弾に対し)単純な知能が作り出した、単純な仕掛けで、解除するのは簡単でした」と。
解除された爆弾は本当に爆発したのでしょうか。

原作では最後の「なーんてね」が入っていません。
映画では爆発シーンも描かれていない。
少年Aの想像の爆発しか描かれていない。

少年Aが同級生の少女を殺すシーンや、少年Bが先生の愛娘をプールに落とすシーンや母親を殺すシーンはしっかり描かれているのに、爆発のシーンは想像のみです。
それに森口先生が牛乳に血液を混入しているシーンも描かれていない。

どこまでが嘘でどこまでが本当かわかりません。
ただ、少年と少女の人生が崩壊したことだけがしっかりと描かれている。

そして一番壊れているのは、淡々と復讐する森口先生です。
小説には書かれておらず、映画のみ発言する「これが私の復讐です。本当の地獄。ここから、あなたの更生の第一歩が始まるんです。なーんてね」がキーワードです。

最後の「なーんてね」で何が嘘で何が本当かすべてわからなくなる。
本当にエイズの血液を牛乳に混ぜたんだろうか。
本当に爆弾を少年Aの母親のもとに届けたんだろうか。
何もわからなくなります。
ただわかるのは、森口先生が壊れてしまったということだけだ。


■ 中島監督の生の描き方と感想

映画館は平日なのにすごい人でした。
こういう全国ロードショーの映画って、観客が遅く来るから嫌ですね。
予告からしっかり座っとけ、と思う。
隣に人が座ってるのが嫌なので、指定席とは違うところに座ってたんですけど、あとからあとから指定の客が来るので、ちょっとずつ席移動していきましたよ。
ミニシアターだと映画ファンが多いから、しっかり座って暗くなるのを待つんですけどね。

んで、見終わった客の反応は、「少年Bの方が復讐重くない?」とかでした。
この映画見てそれだけ?
でもそういうものかもな、って感じ。
原作の小説では森口先生の復讐だけを描いてるようだけど、映画では復讐だけじゃない。
何が本当で何が嘘なのか。
考えさせられる映画でした。


「下妻物語」「嫌われ松子の一生」「パコと魔法の絵本」とは一線を画す「告白」ですが、一瞬だけ過去3作と共通するシーンがあります。
それは少年Bのひきこもりのシーンです。
髪も伸び放題で風呂も入らず歯も磨かず体臭がひどい。
そこでエイズに感染したと思っている少年Bは唯一生の実感を得ます。
生きてるってこういうことだ、と。
そのシーンがポップな映像になり、過去3作と似た雰囲気になります。


あと音楽もすごく良い感じだし、スローモーションになるのが何度もあるんだけど、全然嫌な感じじゃありません。
かなり計算して作ってる感じです。


先日見た「ヒーローショー」と違って、ちゃんとした映画を観た、って感じでした。

あと木村佳乃の狂った演技も素晴らしいですね。
松たか子の淡々とした語り口も引き込まれますし。
中学生の子達も特に違和感がない演技だったので、集中して見られました。
おすすめです。多くの人に見ていただきたい。
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テーマ: 映画レビュー - ジャンル: 映画

この記事に対するコメント

はじめまして。
すごい!そんな洞察はどうやったら身に付くんですか!?
羨ましいです。

URL | 通りすがりの皓 #SFo5/nok

2010/07/04 16:58 * 編集 *

Re: タイトルなし

コメントありがとうございます。


> すごい!そんな洞察はどうやったら身に付くんですか!?
> 羨ましいです。


すごいほめられて恐縮です。
映画の評論を読むのが好きなので、その影響ですかね。
昔はただ映画を見て「おもしろい」「つまらない」で判断してましたが。

URL | さかもと #-

2010/07/05 08:34 * 編集 *

「告白」を観ました

さかもとさんこんばんわ。hychk126です。

原作未読ですが、映画はやっとビデオで観ました。
どこまでがでホントどこからがウソか分からない描き方というのは、原作にはないものだったのですね。
少なくとも映画の松たか子は、牛乳も爆弾も、どっちもやっていないんだろうとは思います。

それでは、今年も「実存浮遊」から柔和な・・・の高頻度更新を楽しみしてますね。

URL | hychk126 #tHX44QXM

2011/01/21 22:49 * 編集 *

Re: 「告白」を観ました

hychk126さんへ

コメントありがとうございます。


> どこまでがでホントどこからがウソか分からない描き方というのは、原作にはないものだったのですね。
> 少なくとも映画の松たか子は、牛乳も爆弾も、どっちもやっていないんだろうとは思います。

僕もどっちもやってない派です。
原作は最後しか読んでませんが、曖昧な描き方はしてませんでした。
hychk126さんの評論も読みました。
近い内にコメントさせていただきますね。

URL | さかもと #tHX44QXM

2011/01/22 00:45 * 編集 *

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