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実存浮遊

映画やアイドルなどの文化評論。良い社会になるために必要な事を模索し書き続けます。

映画『アジャストメント』から社会システムの調整係は誰が最適かを考える 

■ 映画『アジャストメント』から社会システムの調整係は誰が最適かを考える

フィリップ・K・ディック原作。マット・デイモン主演の映画『アジャストメント』を見ました。

以下、ネタバレを含む感想なのでご了承の上お進みください。



■ 運命とはあらかじめ決まっているのか

「アジャストメント」とは「調整」という意味。
過去、様々な愚行を繰り返してきた人類が再び過ちを犯さないように、人々の出会いや行動を調整する。
「運命調整局」は定期的に人間を停止させ思想を更新したり、人と人との出会いを操作することで、議長が記した「運命の書」の通りに社会が回る。

しかし、人と人との出会いは「運命調整局」の力をも越える。
それが『アジャストメント』のテーマだ。


マット・デイモンが演じるデヴィットは「運命調整局」による調整でバスに乗り遅れるはずだった。
だが調整係の居眠りでバスに乗り、ひとめぼれした女性エリースと運命的な再会を果たす。

遅れることなく会社に着くと、「運命調整局」の人間達が同僚を洗脳しているところだった。
それを知ってしまったデヴィットは「運命調整局」に捕らえられ、口外しないこととエリースに会わないことを命令される。

デヴィットとエリースが再び出会うと世界の運命が変わってしまうらしい。


決められた運命に逆らい、デヴィットはエリースと結ばれることを願い、行動する。


この作品を社会学的に読み解けば、重要なテーマが背景にある。

それは「社会システムに従って生きる事は幸福なのか?」という問いだ。

デヴィットは調整員のミスで偶然社会システムに気付く。
我々は自分で行動しているように見えて、実際は外部から操作されているのだ、と。

でもほとんどの人は社会システムに気付かない。
運命の出会いは、誰にも仕組まれておらず、神様の思し召しだと考える。
では「その神様がアクセス可能ならばどうか」という問いが出てくる。
運命というのは誰にもわからないからすべてを受け入れることができる。
どんなに残酷なものでも、誰の仕業でも無いからこそ、悲しいながらも受け入れられるのだ。

でももしそれが誰かの仕業だったとしたら。

本作では、「運命調整局」の「議長」と呼ばれる人物が社会システムを構築している。
誰がどうなるのかあらかじめ仕組まれている。

主人公のデヴィットは、だからこそそれに抗うのだ。
誰かに決められた人生なんて楽しいわけがない。
そういう結論を出した。


繰り返すが、多くの人はこのことに気付けない。
電車に乗り遅れるのも、コーヒーをこぼすのも、誰かのせいとは思わない。

社会学的な結論から言うと、「社会システムとは、市民がシステム通りに動いてると気付かれないものが質が高い」。
自分の行動がシステムによって動かされてるのではなく、あたかも自分の意思で動いてると思い込んでいる。
これが正しい社会システムのあり方だ。

例えば我々は人を殺してはいけないと無意識に思い込んでいる。
だが1995年あたりからこの大前提が崩れてきた。
「人を殺す経験がしたい」
「なぜ人を殺してはいけないのかわからない」
こう考える若者が生まれる。
こういう若者が生まれるということは、社会システムが失敗しているのだ。
これは社会学者の宮台真司先生の指摘だ。



「運命とはあらかじめ決まっていて、しかも自由だ」と俳優の佐野史郎は言っている。
調整されているかも知れないが、調整されていると知りながら生きることは苦痛だ。

では、「運命調整局」の行いは善なのか悪なのか。
ある類似する作品と照らし合わせながら考えてみよう。


■ 映画『マトリックス リローデッド』と『アジャストメント』の社会システムから、調整することの善悪を考える

社会システムについて描いた作品に『マトリックス リローデッド』があります。
以下、『マトリックス』シリーズの核心に触れるので、見てない方はご了承の上お進みください。



『アジャストメント』には、主人公のデヴィットを手助けする調整係が登場します。
「運命調整局」の秘密を教え、移動手段である帽子を貸します。
なぜ彼はそこまでデヴィットのためにするのでしょう。
それは彼が「システムを更新する者」だからです。


『マトリックス リローデッド』では主人公ネオが「システムを更新する者」として描かれる。
マトリックスシステムはどんなに完璧に作ったつもりでも、必ず不具合が生じる。
(不完全性定理!!)

そこでマトリックスシステムは、わざとシステムを壊すバグを組み込んだ。
それがネオだ。
マトリックスシステムを破壊させ、新しく更新することでバージョンアップする。
現実だと思っていたものが、実は夢を見させられているだけだったと気付けたのは、最初からそのようにシステムが組まれていたからだった。

救世主ネオは、人類の救世主なんかじゃなく、マトリックスシステムを更新する救世主だったのだ。


『アジャストメント』はどうか。

「運命調整局」の「議長」が作り出した社会システムに逆らうように仕向ける調整員。
それに従い、好きな女性のためだけに行動するデヴィット。
作中では描かれていないが、この裏切り者の調整員の手助け自体が上司の命令である可能性がある。
つまり、わざと「議長」のシナリオを壊すように仕向けること自体が「議長」のシナリオだったのかも知れない。


そうなると、「マトリックスシステム」と「議長」が構築する社会システムは同じものだ。
わざと壊させ、更新する。



そろそろ表題について書こう。

社会システムの調整係は誰が最適か。
社会システムを調整する事は善か悪か。


この2本が描くように、社会システムは常に更新されなければならない。
自然に任せるのが理にかなってるように見えるが、『アジャストメント』でも語られるように、現在の日本を見ればわかるように、社会システムはうまく自動更新されない。
必ず悪い方向に向かう。

そして、システムの調整は、市民が気付かないように行わなければならない。

もしネオが10億人いたら。もしデヴィットが10億人いたら。社会システムを運営するホームグラウンドそのものが破壊される可能性が高い。


そして一番大事なのが、調整役は、調整する事は悪だと自覚的でなければならない。
だがその調整は善だと信じなければならない。


自分の判断が悪だと自覚し(『マトリックス リローデッド』では多くの死者が出た。『アジャストメント』では交通事故を引き起こした)、それでも社会システムを運営することが善であると信じ切れる者だけが適している。

それはつまり、社会システムのために自分自身の破壊すらも覚悟している者のことだ。


当然、金や票のためにしか行動できない政治家には無理な話。

社会を幸福へと導くエリートを生み出さなければならない。


何も考えず平和ボケしたまま調整されている事も気付かず幸福に生きるためには、深く考え、社会システムと調整に敏感になり、そのためのエリートを生み出すようなシステムを構築しなければならないのだ。

道は険しいだろう。

だが『アジャストメント』の主人公デヴィットの行動が答えとなるだろう。
どんなに困難に陥っても、自らの行動を信じて突き進むしかない。


社会を更新しよう。

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テーマ: 映画感想 - ジャンル: 映画

この記事に対するコメント

すばらしい。
深い考察と的確で平易な表現によって、レビューが映画の付属物ではなくなり映画本編よりも高みに達する瞬間を追体験させていただきました。
映画を観るなら、こうありたいものです。

URL | inuneko #L8qX7C.g

2011/06/12 03:13 * 編集 *

Re: タイトルなし

inunekoさんへ

コメントありがとうございます。

> すばらしい。
> 深い考察と的確で平易な表現によって、レビューが映画の付属物ではなくなり映画本編よりも高みに達する瞬間を追体験させていただきました。
> 映画を観るなら、こうありたいものです。


褒めていただいて嬉しいです。
書いた甲斐がありました。

映画として『アジャストメント』を見ると、もっとおもしろくできそうな気がしました。
でもいろいろ考えさせられたので大満足でした。
単純に「おもしろい、つまらない」で判断したくないと思っています。

URL | さかもと #tHX44QXM

2011/06/12 06:47 * 編集 *

 興味深く読みました。映画だけでなく、現実の問題に焦点を当てているところに読ませれました。参照された映画をじっくり見てみたくなりました。
 いくつか質問があります。時間を割いていただけるのなら、是非答えていただきたいです。煩雑になるのを避けたいので、箇条書きで失礼します。

>社会学的な結論から言うと、「社会システムとは、市民がシステム通りに動いてると気付かれないものが質が高い」。

•社会学と言っても大変に幅の広い学問だと思います。これはどのような社会学的見地に依拠したものですか。もし教えていただけたら、是非フォローしたいと思います。

>例えば我々は人を殺してはいけないと無意識に思い込んでいる。
だが1995年あたりからこの大前提が崩れてきた。
「人を殺す経験がしたい」
「なぜ人を殺してはいけないのかわからない」
こう考える若者が生まれる。
こういう若者が生まれるということは、社会システムが失敗しているのだ。

•なるほど、システム不調の回復役としてエリートが要請されるわけですね。
しかし、共産主義やファシズム、最近ではカルト新興宗教の例など、「よき社会」の実現を目指し、結果として社会を壊してしまったエリートの歴史を鑑みれば、私たちは全体の善のために働くエリートについてより慎重に検討することが必要だと思います。つまり、誰がそのエリートの行動や判断の客観性を担保するべきとお考えですか。それはどのように可能でしょうか。もしくはそのような第三者は必要ないですか。

•それともうひとつ。社会の歪みの原因をシステムの調整の不備に帰属させるのは、実は反対です。なぜならマルクス主義者の論理と似ているからです。大まかに言えば、彼らはほとんど全ての社会問題の原因を階級に帰属させ、階級克服=革命が全ての問題を解決すると考えました。そのような還元主義は論理的には全く正しいのですが、現実的ではありませんでした。同じようなことは、社会的ダーウィニズムや遺伝子決定論、もしくは社会決定論などにも当てはまると思います。
むしろ、社会の前提が崩れつつあることを各人が認識し、前提にすべてを依存させないで生きていくことのほうが現実的ではありませんか。

長文になりましたが、お時間が空いていたら返答をお願いします。

URL | ひろし #-

2011/07/20 00:37 * 編集 *

Re: タイトルなし

ひろしさんへ

コメントありがとうございます。
こんな書き込みを待ってました!!
ブログとかツイッターやってますか?
リンクやらフォローやらしたいです。
ぜひ教えてください!!



> •社会学と言っても大変に幅の広い学問だと思います。これはどのような社会学的見地に依拠したものですか。もし教えていただけたら、是非フォローしたいと思います。

ほとんど宮台真司の本から得た知識です。
「社会システム理論」の考え方らしいです。


> •なるほど、システム不調の回復役としてエリートが要請されるわけですね。
> しかし、共産主義やファシズム、最近ではカルト新興宗教の例など、「よき社会」の実現を目指し、結果として社会を壊してしまったエリートの歴史を鑑みれば、私たちは全体の善のために働くエリートについてより慎重に検討することが必要だと思います。つまり、誰がそのエリートの行動や判断の客観性を担保するべきとお考えですか。それはどのように可能でしょうか。もしくはそのような第三者は必要ないですか。


素晴らしい問いですね。
オウム真理教の幹部は「良き社会のため」にサリンを撒きました。
社会学のテーマでもあります。
「良き社会」とはどのような社会なのか。

まず良い社会がどのようなものなのか(どの地域までの幸福か、どの時代までの幸福か、どの生物までの幸福か)。
これは常に変化し続けるので、常に議論し続ける必要があります。

エリートは民意が目指す「良い社会」に敏感である必要があります。
でも多くの場合、民意は悪いエリートに誘導されてますね。
だから良いエリートも生まれにくいし、エリートを監視できる市民も生まれない。

長くなりました。
宮台真司の発言が答えになると思います。
利己的ではなく利他的な人間。
理解不能な行動の凄み(自分を犠牲にしてまで知らない誰かを救うなど)により感動する。
(宮台さんは「感染、ミメーシス」という単語を使います)

なので利己的ではなく利他的な人間をエリートとして認めるべきでしょう。
でも自分の利益のために悪いエリートを利用する市民もいます。
先は長そうです。



> •それともうひとつ。社会の歪みの原因をシステムの調整の不備に帰属させるのは、実は反対です。なぜならマルクス主義者の論理と似ているからです。大まかに言えば、彼らはほとんど全ての社会問題の原因を階級に帰属させ、階級克服=革命が全ての問題を解決すると考えました。そのような還元主義は論理的には全く正しいのですが、現実的ではありませんでした。同じようなことは、社会的ダーウィニズムや遺伝子決定論、もしくは社会決定論などにも当てはまると思います。
> むしろ、社会の前提が崩れつつあることを各人が認識し、前提にすべてを依存させないで生きていくことのほうが現実的ではありませんか。


自殺者が一向に減らず、職を失ったり借金をするなど一度の失敗ですべてが終わってしまうような社会。
それなのに誰も何もできないでいます。
良質なエリートを生み出せ、そのための民度も向上している状態。
社会に頼らず、人と人との関係性でも幸せに生きていける社会。
これらを目指すためのシステム構築が重要だと思います。


長くなりましたが、「システムに依存しないために、民度を上げるためのシステムが必要」という感じですかね。

URL | さかもと #tHX44QXM

2011/07/20 08:34 * 編集 *

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劇場鑑賞「アジャストメント」

自分の“運命”も調整されているのか、気になるなぁ・・・ 詳細レビューはφ(.. ) http://plaza.rakuten.co.jp/brook0316/diary/201105270006/ アジャストメント―ディック短篇傑作選 (ハヤカワ文庫 SF テ 1-20) posted with amazlet at 11...

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