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実存浮遊

映画やアイドルなどの文化評論。良い社会になるために必要な事を模索し書き続けます。

映画『127時間』の痛みと汚れについて 

■ 映画『127時間』の痛みと非日常を経た幸福に震える



ダニー・ボイル監督『127時間』は壮絶なドラマです。
『スラムドッグ$ミリオネア』『トレイン・スポッティング』『28日後...』『ザ・ビーチ』などで有名なダニー・ボイル監督。
ダニー・ボイル監督の作品は「痛み・汚さ」を伴う。

以下、ダニー・ボイル監督の作品や、『127時間』のネタバレを含むので、これらの作品を見たことが無い方は了承の上お進みください。



■ 過酷な生を生き抜くヒント



映画『127時間』の主人公アーロンはキャニオンライズ国立公園というキャニオンが立ち並ぶ荒野を進んでいる。

アーロンは非日常体質だ。

危険な岩の上を身ひとつで突き進む。
自転車で滑走してて大転倒しても、それをデジカメで自分撮りする。
『127時間』のストーリーを知っている観客はこの男を見て、「こいつならなんかやってくれる」と思わせられる。
言わばここぞという時に頼りになりそうな存在だ。

道に迷ってる女性二人をガイドし、渓谷にある地下水源にダイブして楽しませる。
短時間で彼女たちを虜にするほどの魅力の持ち主だ。

危険を顧みず日常を突き抜けた存在として描かれるアーロンは、岩石とともに落下してしまい、岩壁と岩石の間に右手を挟んでしまう。

人は誰も通らない。
岩石はびくともしない。
所持品は少しの水と少しの食料と、ナイフとロープとデジカメとライト。

錯乱し右手を引き抜こうとするアーロンだが、やがて冷静になる。
このままでは死んでしまう。
どう脱出するのか。


映画開始直後のハイテンションな映像と音楽は、ここに来て死への恐怖とのギャップを強調し出す。

我々には、「あのアーロンでさえこの状況を絶望的だと感じている」と、事態の深刻さが痛いほど伝わってくる。


平時の時は誰だって陽気に振る舞える。

有事の時にこそ人間の本性がわかる。

現在日本が陥っている状況と照らし合わせて見ることで、より一層アーロンのすごさがわかる。
我々はアーロンのような行動が取れるだろうか。


■ 運命を決定するのは何か



決まった時間に上空をワタリガラスが通過する。
岩壁の隙間を15分間だけ太陽の光が照らす。

過酷な状況の中で、なんとか生きる意欲を沸き立たせる。
残りの水もわずか。
妄想が喉の渇きを意識させる。
ビデオカメラに撮影してたガイドした二人の女性の映像に欲情する。

やがて思考は哲学的になる。

すべてのきっかけが現在のこの状況を生み出している。
朝、家族からかかってきた電話に出ていれば。
行き先を誰かに告げていれば。
父親に幼少期のころ広大な大地の日の出を見せてもらったことも、ガイドした女性二人と出会ったことも、すべてが現在に集約していく。

すべては決まっていた。

地球の誕生から、岩石が右手を挟むことが決まっていた。


運命とはあらかじめ決まっているのか。

当然そんなことはありえない。

でも様々な無数のきっかけが現在の状況を生み出しているのは確かだ。
アーロンはバタフライ効果のような思考に至る。
ブラジルで蝶がはばたくと、中国で竜巻が起こる。

劇中、いろんなカットが挿入される。
そのどれかにアクセスしていればこんな状況にはならなかったとでも言わんばかりに。

そう、アーロンの姿はそのまま我々の姿だ。

平時から有事に移行した我々の姿だ。

何かのきっかけ次第で、こんな状況には陥らなかったであろう姿だ。

でもほとんどの人は自分が抜き差しならない状況に陥らないと気づかない。
そして何かのせいにする。


我々はアーロンのように右腕を切り落とす覚悟はあるだろうか。


■ 痛みと汚れを引き受ける覚悟はあるか



ダニー・ボイル監督の作品によく見られるのが「痛み」と「汚れ」だ。

『スラムドッグ$ミリオネア』では、主人公の男の子は幼少期に肥溜めに落ちたり、故意に視力を奪われたかつての友人と出会う。

『ザ・ビーチ』ではコミュニティの仲間がサメに襲われる。

『28日後...』ではまさに謎のウイルスに感染し暴徒化した人間に襲われる。

『トレイン・スポッテイング』では主人公が薬を拾うために便器の中に入っていく。


そして『127時間』のアローンは自らの右腕を切り落とす。
神経を切るシーンはエレキギターの高音が痛みを際立たせる。


痛みと汚れを引き受ける者に未来が訪れることを描く監督。

痛み、汚れ、非日常。


右腕を失っても登山を続けるアーロン。
彼は伴侶にも恵まれ、友人たちに囲まれて幸福に過ごす。


糞にまみれ、腕を切り捨ててでも生き抜くほどの活力が必要だ。

酷薄な世の中を生き抜くためにぜひ鑑賞していただきたい。
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テーマ: 映画感想 - ジャンル: 映画

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