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実存浮遊

映画やアイドルなどの文化評論。良い社会になるために必要な事を模索し書き続けます。

映画『恋の罪』の過去作コラージュから園子温監督の決意表明を受け取る 

■ 東電OL殺人事件という隠れみの


園子温監督の最新作『恋の罪』(Guilt of Romance)はすごい映画です。
表向きは東電OLにインスパイアされた映画という触れ込みだが、裏には園子温作品のファンに対する挑戦状とも言える強烈なメッセージが暗号化されている。


以下、本作のネタバレを含み、かつ、園子温監督の過去作にも触れるため、本作はもちろん過去作を見てない方は、了承の上お進みください。

未見な方でもわかるように説明を加えています。





■ 『恋の罪』に描かれる男と女の愛の地獄


本作は東電OL殺人事件にインスパイアされたと言われている。
渋谷区丸山町のアパートで殺されたエリートOLが夜は売春をしていたとして話題性が高い事件。
39歳の女性は首を絞められ死亡。骨と肉だけという痩せ過ぎな体型だったらしい。

本作では冨樫真という女優が大学の助教授と売春婦という役を演じている。


『恋の罪』では3人の女性が主人公。
大学助教授で売春婦の美津子
人気作家を夫に持つ貞淑な妻で売春婦に堕ちていく菊池いずみ
この殺人事件を追う刑事吉田和子


幸せな家庭を築くが、裏で旦那の後輩に調教されている女刑事吉田和子。
水野美紀が演じる。


異常なまでの潔癖症な旦那を持つ貞淑な妻いずみを、『冷たい熱帯魚』で好演した神楽坂恵が演じる。
AVのスカウトをきっかけに、セックスワーカーになり変化していく女性を熱演。


いずみにセックスワーカーの極意を教授し、昼は大学で詩をそらんじる助教授を、冨樫真が演じる。
セックスワーカー時の狂演は必見。


そしてもう一人強烈な女優が登場する。
助教授売春婦の母親役に大方斐紗子。
このおばあちゃんが怖い。
凛とした態度で日常会話の流れのままに娘を口汚く罵る。


この4人の女優が演技という刀で斬りつけ合っている。
まばたきすることを忘れるほどの2時間半。

そして女優だけでなく男優もすごい。

家では機械のような精密さを要求し、外では売春婦に首を絞められながら射精するのが好きな作家を演じる津田寛治。


『時計じかけのオレンジ』のような格好でいずみに「城の入口を探そう」と美津子との接点を作ったデリヘル経営者に小林竜樹。
ラバーガールの大水じゃなかったんですね。



物語は猟奇殺人の現場から始まる。

頭部が無く、上半身と下半身が切り取られ、それぞれマネキンの半身をくっつけられた女性の死体が見つかる。

事件を追う女刑事と、事件に至るまでの2人の女性という2つの時間軸で物語が進む。


女刑事吉田和子は、良き旦那とかわいい娘に囲まれて幸せに見えるが、どこか物足りなさを感じる。
和子は旦那の後輩にセックス調教されていて、家庭が崩壊するかも知れないが、ご主人様の言うことには抗えないという立場だ。
事件の真相に近づくにつれ、売春婦と性に逸脱していく自分がシンクロしていく。


有名作家を旦那に持ち、裕福だが窮屈で物足りなさを感じている世間知らずな妻いずみは、試食品売り場のパートを始めるが、自分に自信が無い。
AVスカウトの女性にかわいさを見抜かれ、流されるままにAV撮影をしてしまう。
ほめられる事で女性性を獲得したいずみは、以前とは違い活き活きとしている。

全裸になり鏡の前で試食品売りの掛け声を練習するシーンは必見。
性が開花する事と、人間的な成長とをわかりやすく強烈に描いたシーンになっている。


ある日黒いハットに白いつなぎを着た若者にナンパされる。
セックス後に手首を縛られ家に帰さないと脅されるいずみは、男の言いなりのままにセックスしながら旦那に電話をする。

開放され自我を失ったように放心状態のいずみに、偶然美津子が手を差し伸べる。
救われると思ったいずみは美津子の弟子になることを決意。
美津子の昼の顔である大学助教授の講義を聞く。
その後美津子から、愛の無いセックスをした時は相手から金をもらうことを叩き込まれる。


売春すればするほど輝き出すいずみは、以前自分を開花させてくれたAV男優すらも凌駕していく。

美津子の紹介で以前いずみを脅した男が経営するデリヘルで働くことになる。
そこでの最初の客がなんといずみの旦那だった。
金髪のかつらとサングラスをしているいずみに気付かない旦那は腰を振り続ける。
美津子は最初からいずみと旦那を引き合わせる画策をしていたようだ。

「愛の無いセックスをしたら相手から金をもらえ」

この教えの通り、自分の旦那から金をもらうところまで堕ちたいずみ。

「私のところまで堕ちてこい!!」

美津子の慟哭がいずみの魂に刻まれている。


その後ついに事件が発生する。

ひとりの売春婦の誕生が、もう一人の売春婦を死に至らす。


『恋の罪』というタイトルにあるように、愛に発展しない罪悪な恋は関わる者をすべて不幸にする。



これがこの物語の流れです。
出演者の演技も迫力があるし、いつも通り体感時間が短くあっという間に終わってしまった映画でした。


構造上、序盤にセックスシーンを盛り込み観客に集中させ、後半はそのまま突っ走る、という映画的なうまさもある。

「東電OL殺人事件」の園監督的解釈、という話題性もある。



だがこの映画は、「東電OL殺人事件」を描いたわけではない。
園子温ファンにしかわからない裏メッセージが込められている。


『恋の罪』は自身の過去作を否定することで自身を乗り越えるという長い決意表明なんだ。


■ 過去作検証



『恋の罪』とは園子温ファンに向けられたメッセージだ。
要所要所で自身の作品を散りばめている。
なので一度見ただけではすべての暗号を解読することは不可能だ。

これから不完全は承知で暗号を解読していくのだが、その前に過去作とシーンを検証してみたい。



一番好きな映画は『紀子の食卓』(小説版のタイトルは『自殺サークル完全版』)です。
なので園子温作品を見ると、どうしても『紀子の食卓』と比べてしまう。
その流れを組む『愛のむきだし』も。


参照:ゼロ教会に迫る-「愛のむきだし」感想に代えて- 


なので『恋の罪』の序盤に出る「Chapter.1」という文字だけで肌がびりびり震えた。
そして次から次へと映し出される過去作の模倣シーン。

だから『恋の罪』の物語を追うと同時に、園作品の記憶を呼び起こし『恋の罪』と照合し続ける、という行為をしながら鑑賞した。

疲れたけど止めさせてくれない。ぐいぐい引き込まれていく。
普通のシーンでも僕にとっては強烈なメッセージを持つシーンとして脳にぶっ刺してくる。


まずこれまでの園作品に登場する名前「ミツコ」だが、今作も当然登場する。

『恋の罪』のチャプター数は『紀子の食卓』と同じだ。
うろ覚えだが「ようこ」という名前も出た気がする。
『紀子の食卓』でヨーコと言えば吉高由里子が演じた役だ。

美津子がいずみに自分のセックスを覗かせるのは、『奇妙なサーカス』で娘に楽器ケースの中からセックスを覗かせるシーンに類似する。
こじつけに思えるが、いずみがラスト左の鼻から鼻血を流すのも『奇妙なサーカス』の主人公が小学生時代に鼻血を左から出すのと同じ。

主婦が道端で突然包丁を自分に突き刺すのは『自殺サークル』に類似する。

いずみが男にまたがり詩をそらんじるシーンは『愛のむきだし』と同じ。

ラストいずみが仰向けで倒れるのは、『冷たい熱帯魚』で社本が仰向けで倒れるのと一緒。



類似シーンを列記してみた。

これらをどう受け取るか。
それは園子温ファンの役目だ。


暗号を解き明かせ


暗号を解くためのキーワード。
それは「上昇」です。

一番わかりやすいシーンはいずみが男にまたがり詩をそらんじるシーンだ。

『愛のむきだし』ではヨーコがユウにまたがり「コリント書13章」を叫ぶ。
この時ヨーコは上からユウを見下ろして叫ぶ。

『恋の罪』では最初いずみは男を見下ろして詩を叫ぶ。

「言葉なんかおぼえるんじゃなかった!!」

そしていずみはなんと顔を見上げ、観客に向かってカメラ目線で叫び続ける。

このシーンで震える。

ここで僕は、『恋の罪』は過去作を乗り越えるために作られた映画なのではないか、と思考を巡らせたのでした。


他には、『自殺サークル』で終盤淡々と自殺し続ける人々が異様だが、彼らは最後まで自殺する役を演じ続けている。
だが『恋の罪』では通りかかりの主婦が自分に包丁を突き刺し吉田和子が駆け寄ると我に返る。

この「洗脳が解ける感じ」は今後園子温作品を語る上で重要なキーワードになるであろうと予言しよう。


『愛のむきだし』に登場する3つのランク。
ケイブ(アクターになるために現在の自己を捨てる段階)
アクター(役を与えられ演じる者)
プロンプター(アクターに役を与える者)

それが『冷たい熱帯魚』同様、今作も投影されている。


参照:映画『冷たい熱帯魚』『紀子の食卓』から洗脳と成長と憑依を学び、すべてを覆す強い女子高校生を知る 


結論から言うと、プロンプターは美津子の母だ。
『冷たい熱帯魚』では社本に役を与え、娘を殴らせたり、妻を犯させたり、ボディを透明にする方法を伝授した村田幸雄(でんでん)。
これは紛れもなくプロンプター。

では『恋の罪』はどうか。

いずみをセックスワーカーに仕立て上げる美津子がプロンプターに見える。
だが実はプロンプターに見えた美津子はアクターでしかなく、母親が指示する通りに殺されてしまう。
(美津子が首を絞められて殺されるのは、いずみの旦那を首絞めセックスしてたのとつながってるのか)


美津子の下品さを取り除きたい母は、美津子の死体すら自分の思い通りに動かす。

おそらくデリヘル経営者の男に体を切断させ、その後男を自殺させたのだろう。


『愛のむきだし』も『冷たい熱帯魚』も、プロンプターが殺されてきたのに対し、本作のプロンプターは死なない。



ここまで来ると、「いずみ役がなぜ神楽坂恵なのか」、というのがとても意味を持ち始める。

神楽坂恵は、前作『冷たい熱帯魚』のラストで旦那である社本に刺されて殺された。

『恋の罪』では、その神楽坂恵が激怒した男に殴られる。
社本と同じように地べたに仰向けになるが、社本と違いいずみの表情は晴れやかで笑みをたたえている。

ここに、問題作『冷たい熱帯魚』を園子温の代表作にしてたまるか、という気概をバシバシ感じる。

前作死んだ神楽坂恵が、本作では笑って上を見続ける。


この監督による「自己の書き換え」「過去作を否定し最高傑作を生み出し続ける決意」が、『恋の罪』に込められたメッセージである。


■ 園子温はどこへ向かうのか


最近の園子温監督の作品を語る上で欠かせないのが「洗脳」です。

「自殺サークル3部作」である『自殺サークル』『紀子の食卓』『愛のむきだし』。
それと『冷たい熱帯魚』。

これらは洗脳を描いている。

「自殺サークル3部作」では、我々はまだ自分の役割に気づいておらず、まず自分が空洞である事を知り、プロンプターから役割を与えられることで幸福に生きていける、もしくは死んでいけるのだ、と説く。

それを引き継いで描かれた『冷たい熱帯魚』では、強烈なプロンプター村田幸雄(でんでん)が登場する。

社本(吹越満)をアクターに引き上げ、死体解体の手伝いをさせる。

村田幸雄を殺し「プロンプターを演じる」というアクターになった社本は、結局はプロンプターにはなれなかった。


「洗脳を施された者は洗脳した者を超えられない」


これが過去作にある共通のルールです。

『恋の罪』では、過去作を乗り越えているが、登場人物たちは誰もプロンプターである美津子の母を超えていない。


おそらくこれは「洗脳」の限界。
洗脳によって幸福に至ることはできない、ということなのかも知れません。

現在僕は混乱しています。

幸福な社会を目指す僕は、『紀子の食卓』の擬似家族こそが幸福への方法だと信じてきました。

誰もが自分自身の役割に気付き、それをまっとうする社会。
みんながライオンになろうとするのではなく、誰かが食べられるウサギであることを受け入れる。
血縁ではなく演技により豊潤な社会性を獲得できる包摂性。

これらが幸福な社会であると信じてきました。


でも園子温が到達した結論は「否」。
現時点では、「洗脳」を否定している。


「自殺サークル3部作」(洗脳こそが幸福への道)→『冷たい熱帯魚』(洗脳した者を殺しても乗り越えたことにはならない)→『恋の罪』(洗脳の否定)という経緯。


では園子温はどこへ向かうのか。

それは劇中に登場するキーワードが示している。

「城」

カフカの小説『城』をモチーフにしているらしい。
カフカの未完の作品で、城に到達できない測量士の物語らしい。

つまり、まだ『恋の罪』は到達していないのだ。
登場人物たちは誰も「城」に入っていない。

当然観客もだ。

そして最後のセリフが象徴的だ。

今どこにいるのか聞かれた吉田和子は「わからん」と答える。

そう。わからんのだ。現在我々はどこにいるのか。


2012年公開の映画『ヒミズ』が連れてってくれるだろう。

それは「ケイブ・アクター・プロンプター」の更に上位のランクなのかも知れないし、今までとはまったく違うものかも知れない。


とにかく、『恋の罪』は通常の見方をしていては園子温からの強烈なメッセージを取りこぼす。

そして次回作『ヒミズ』が我々を「自殺サークル3部作」『冷たい熱帯魚』『恋の罪』の更に先のネクストステージへと導く。


園子温に対し、むせび泣くほどの賞賛あるいは、殺したくなるほどの嫌悪を抱かせる次回作を期待します。


これから園子温の「洗脳外し」が始まる。
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テーマ: 映画感想 - ジャンル: 映画

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